ポール・マッカートニー 「エピフォン・テキサン 1964年モデル」について語る その3
(「ポール・マッカートニー 「エピフォン・テキサン 1964年モデル」について語る その2 - ロックの歴史を追いかける」から続く)
【父親の演奏していた音楽】
僕の親父がやっていた音楽はスキッフルでも、ブルースでも、ロックンロールでもなかった。僕が生まれた時から聴いていたようなスタンダード・ミュージックだったよ。「スターダスト」とかそういうやつだ―僕はホーギー・カーマイケルが大好きだよ。今でもこういう音楽に立ち返る時がある。僕の書く曲をバラエティに富んだものにしてくれるし、みんなをアッと言わせたいようなときには持ってこいの音楽なんだ。
【ギターを弾き始めたころ】
僕とジョンはそれぞれアコースティックギターを持ってきて、まずE、A、そしてBコードから始めた。そしてだんだんのめり込んできて、C#とかセヴンス・コードとかをやりだした。それまで使ったことのないコードを発見した時のすごい興奮を今でも覚えているよ。それだけで新しく5曲書くことができるし、今書いている曲をもっといいものにすることもできるんだ。
【初期ソロのアコースティック】
ビートルズとしてやっていたときは、ギタリストが2人いたから、僕もギターを弾くとギターが3本になった。3人でアコースティック・ギターで曲を弾いてみて、そこからエレキに発展させた。ものによっては元のヴァージョンが良くて、アコースティックのままにしたものもある。僕の最初のころのソロ・アルバムでは、一緒にセッションをして曲を発展させる人がいなかった。つまりジョンもジョージもいなかった。だから「ジャンク」「テディ・ボーイ」「ハート・オブ・ザ・カントリー」など、アコースティックのままの曲があるんだ。もちろんアコースティックのままのほうがよく聞こえるからだけどね(笑)。
【変則チューニング】
僕はチューニングを変えて弾くことはしない。たまにDコードの曲のとき、低いEの弦をDに下げることがあるけどね。僕も運営にかかわっている「リヴァプール・パフォーミング・アーツ」の音楽分門の学校管内に「当校では「Blackbird」を演奏するための特別なチューニングをお教えします」って書いてあるんだ。それを見て、おい、そんなことする前に僕に見せろよ、と思ったね。
別にビートルズだからと言って特別なアプローチがあったわけではないんだ。それなのに、みんなは、僕たちがやったこと以上のことを分析しようとする。
【ポールに影響を与えた先人たち】
僕がフィンガーピッキング奏法に興味を持ったのはチェット・アトキンスのおかげだ。彼の『ダウン・ホーム』というアルバムに入っている「トランボーン」というインスト曲があって、みんなこれを覚えようとしたんだ。
カール・パーキンス、チャック・ベリー、バディ・ホリー、デニー・ライト(ロニー・ドネガンのバックでギターを弾いていた)たちは素晴らしく、僕は大好きだった。
ウッディ・ガスリーやランブリン・ジャック・エリオットのアコースティック・フォークも好きだったよ。レッドベリーもよく聞いた。でもどれもピンとこなかった。
あるとき、これだ!と思うのがあった。それがチャック・ベリーだったんだ。次にこれだ!と思ったのはスコッティ・ムーアだったよ。
(スコッティ・ムーアはエルヴィス・プレスリーのバックでギターを弾いていた。)
僕はいろんなものが好きだった。いろいろなものを取り上げては、だんだん消化していったんだ。僕のヴォーカル・スタイルもそういうところがあるね。僕はエルヴィスが大好きで、彼の曲のいくつかを彼になりきって歌ってみた。同時にリトル・リチャードも大好きだったんだよ。
『マッカートニー』に収録されている「Man We Was Lonely」では、ジョニー・キャッシュになりきった。よくできたと思うよ。ジョニー・キャッシュ本人に聞かせたこともあるんだ。
そのころ使っていたのは「マーティン D-28」だった。僕はいくつか家を持っているけど、それぞれの家に1つずつアコースティック・ギターを置いてある。
【機材へのこだわり?】
腕のいいエンジニアのおかげで、今でもいいアコースティックの演奏ができるよ(笑)。これは、いい音を録りたいと思っている人への、僕からのアドバイスだ。腕のいいエンジニアを得よ。彼らはマイクを用意して、僕は歌うだけ。それでいい音が録れる。もし音が良くないと手を加えることがあるけど、だいたいはエンジニアを信頼するよ。
僕が機材について無頓着なことを証明してしまうエピソードがあるよ。ニューヨークの楽器店に行った時のことだ。店員が僕のことに気づいて「私もベースを弾くんです。前から知りたかったんですが、あなたはどの弦を使っているんですか」って聞いてきた。僕は「長くて光っているやつを使っているよ」って答えた。別に笑わそうと思って言ったわけじゃないんだよ。本当に自分の弦を知らなかったんだ。僕にとっては重要なことじゃないからね。どんなものでも僕は弾くよ。僕は機材については全然うるさくない。機材より演奏と曲のほうが重要なんだ。
(終わり)