ジェフ・ベックが語る 肩の手術、タッピング奏法、そしてクラプトンとの関係(2018年のインタビュー)

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http://www.jeffbeck.com/music-aficionado-makes-jeff-beck-solo-unforgettable/

 

以下は2018年7月に「Rock Cellar Magazine」に掲載されたジェフ・ベックのインタビュー(Jeff Beck: On Building His First Guitar and Why He’s Not a Fan of Tapping)。

 

2017年に肩の手術で休養していたこと、タッピング奏法を好まない理由、そしてドキュメンタリー映画『Still on the Run』やエリック・クラプトンとの関係など、興味深い話をしている。

 

初めてのギター

実家の近所の人が年配の人で、彼は「5ポンドでソリッド・ボディのギターを作ってやる」と言ってきた。5ポンドなんて、当時の私には500ポンドと同じような高額だったから、私は自分で作ることにした。

 

最初に作ったのは1956年だった。エルヴィスが登場して、耳にするポップ・ミュージックといえばギターサウンドだったんだ。エルヴィスだけでなく、みんなそうだった。ビル・ヘイリーなどもそうだ。それから夢中になったんだ。他の人たちも同じような経験をしていると思う。

 

肩の手術

去年(2017年)は肩の手術をしたので、その後1年間オフになった。夏はとても気持ち良かったので太陽のもとプールサイドに座ってじっとしていた。いいことに聞こえるかも知れないが、実に退屈だったよ。

※訳注:ジェフ・ベックは2017年1~2月の日本公演を終えてから2018年6月にヨーロッパツアーを始めるまで、一年以上にわたってライヴを行っていない。

 

回旋筋腱板の断裂だったんだ。どういう症状かというと、骨が結晶のように成長しすぎて軟部組織に食い込んでしまうことがある。そのままにしておくとどんどん悪化して軟部組織にダメージを与えてしまう。でもその前に骨を削る手術をしておけば大したことにはならない。顕微手術で済んだ。今は手術跡もないよ。

 

(演奏への影響は)なかった。というか、演奏はできたし肘や指を動かすことはできるが、すごく痛かったんだ。医者には「もう一つの箇所を同時にやらなくて良かった」と言われた。自分でTシャツを着られるようになるまで1年近くかかったんだ。妻に手伝ってもらわなければならなかった。腕を頭の上に上げて両腕を入れることまではできたが、それを引き下ろすことはできなかったんだ。

 

 

 

フェンダーを好み、タッピングを好まない理由

まあ、ストラトが流行っていたんだ。尊敬するハンク・マーヴィンはそれをとても甘美なサウンドにしてくれた。つまり、どのギターも基本的には同じだけど、誰が弾くかによって全く違うものになる。

 

でも、私はいつもフェンダーストラトキャスターがロックンロールのための最も汎用性の高いギターだと思っている。そして、彼らが作ったカスタム・ショップ・エスクァイアはとにかく素晴らしい。

 

もっとも間違いのないやり方は、ギターから直接学び取るということだ。どこにハーモニックがあるか?ダブルハーモニックは?それらがどこにあるかをメモしておいて、それを演奏で使う。それが私のやり方なんだ。

 

ギターが下手な人にとっては、トラブルから逃れるための手段と言えるかもしれないね - もちろんジョークだけど、このジョークには本質的なものがあるんだ。多くの人がすぐにタッピングをやるという考えに振り回されてしまうが、私に言わせればタッピングは音楽的なパフォーマンスではなくサーカスのようなものだ。

 

彼らはお互いを出し抜こうとしているだけだ。私と共演してくれそうな若い才能を求めてYouTubeを見ていたときに気づいたのだが、タッピングの世界のことはすべて誰かがやっているんだ。エディ・ヴァン・ヘイレンがすでにやり遂げている。だから彼に任せておけばいい。つまり、タッピングの技術で私に近づいてきてほしくないんだ。

 

ハチのように高速でいつまでも弾き続けることにどれだけ効果的があるんだろうか?しかもどの曲でも音程の変化が見られない。チョーキングのように絞り出すような感じがない。叙情性もない。ただ完璧なタイプライターの音がするだけで、よく聞こえることもない。つまるところ、ウザいんだ。

 

私のギター演奏は潜在意識にうったえるヴォーカルだと思う。ヴォーカルの代わりになっているんだ。ヴォーカルを使わずにメロディを伝えるために必要な前提条件でもある。そういうことだ。

 

不必要で余分な400個の音ではなく、長く引き延ばされた1音が実に数多くのことをしてくれる。サント&ジョニーの「Sleepwalk」のような曲が美しく演奏されているんだ。 あれはスティール・ギターで、音色が実に素晴らしい。

 

一時期はあんな感じでやってみようと思っていたが、気がついたら弦がフレットから半マイルも離れているじゃないか!(笑)。しかしその音色は他の追随を許さない。完全にクリアでパワフルだ。

 

私がメロディに集中して演奏を始めたのはこれがきっかけだったと思う。私が演奏を始めたころは素晴らしいインストゥルメンタルがたくさんあった。リンク・レイは素晴らしかった。彼のナンバーを真似してみても、単純なものではないことが分かるはずだ。

 

 

 

ドキュメンタリー映画『Still on the Run』

(映画の許可を求めて)何度も依頼が来た。あるミーティングでは6人の関係者と一緒に出席したが、私は長いテーブルの反対側にいて、自分が裁かれているような気がしたものだ。「あんたたちは自分の時間を無駄にしているよ」と言ってやった。

 

しかしその後、何が起こったかというと、彼らはロンドンのクラブの上にある部屋を予約して、私にインタビューをすることになったのだ。私は何となくイエスと言っていただけなのにね。10秒ごとにガラガラと配膳台が運ばれてきて、食べ物を持って来てガチャガチャと音を立てていたよ。

 

誰が見ても「これはダメだ」と思った。これでもう巻き込まれることはないと思って家に帰った。でも、彼らはまだ続けているんだ。だから「よし、礼儀正しくして、何かの提案をしてみよう」と思った。もしアーティストとしてコントロールができるなら、何も問題はない。彼らはいたるところを奔走して、いろいろなものを集めようとしていた。

 

親しい友人に映画監督がいるんだけど、(彼と作るとしたら)とても面白くて、おそらくもう少し前衛的なものを作っていたと思うんだけど、これ(『Still on the Run』)ほど事実に基づいたものにはならなかっただろう。

 

ドキュメンタリーの製作者たちはとても良い仕事をしてくれたと思うし、彼らとジミー(・ペイジ)は特別な方法で全体をまとめてくれたし、私のキャリアの中で重要な瞬間を視覚的に表現してくれて、素晴らしいと思うよ。 私は試写を観るのに耐えられなかったんだが、妻が入ってきて「これは私が望んでいた通りだわ」と言ってくれたんだ。

『スティル・オン・ザ・ラン ~ ジェフ・ベック・ストーリー』

 

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http://www.jeffbeck.com/best-concerts-2018-jeff-beck/

 

エリック・クラプトンとの関係

エリック(・クラプトン)が出演してくれたのが一番のサプライズだったと思う。彼が出演しているとは知らなかった。スタッフは教えてくれなかった。そして、他の出演者たちがそうであったように、彼に彼自身の言葉でしゃべらせたことは素晴らしいことだった。

 

でも彼が出演するとは期待していなかった。ちゃんと準備されたコメントがあると思っていたがまさかエリックが?当時の私たちの間の空気の中には・・・最近でさえも・・・いつもある種のパチパチとした距離感があったのだ。

 

気まずさはなかったけど、彼は私が彼の影になるのを嫌っていたのか、何かがあった。でも、彼が私の家に来た時には、確実に状況が変わっていたよ。あの時が初めてだった。それまで彼が私の家の近くに来たことはなかったと思う。

 

でも、私たち二人が犬を連れて野原の一角を歩いている写真があって「ここに二人の友人がいるじゃないか」と思ったんだ。「私たちはこの何年もあいだ何を勘違いしていたんだろう?」ってね。

 

彼は70代になって、ある意味落ち着いてきたようだ。最近の彼は素晴らしい人だ。昔の彼は必死で有名になりたいと思っていた。なぜそんなことをするのか私には分からなかった。目指していたものが違っていたからだ。でも、私は彼から挑戦されたことはなかったと思う、演奏以外ではね。私の音楽は彼のおかげで得られたわけではないのだ。

 

「ワンダフル・トゥナイト」や「ティアーズ・イン・ヘヴン」は美しく仕上がっていたけど、彼は厳格なブルースマンではなかった。しかし彼はキャリアを通してブルースに集中していたし、私はいつもあちこちで演奏してきた。私たち二人は別々の人間だし、それ以上の必要はないってことに彼は最近そのことに気づいたようだ・・・過去に何があろうがね(笑)。

 

 

 

ピンク・フロイド

ピンク・フロイドに加入したけど、デヴィッド・ギルモアにギグを奪われたんだよ!(笑)。そして、ロジャー(・ウォーターズ)と一緒に『Amused to Death』を作ったんだ。あれは「今まで存在しなかった素晴らしいアルバム」だ。数年前のサラウンド・ミックスを聴いたことがあるかい?とんでもないものだ!

 

(ロジャーがあまり『Amused to Death』を気に入っていないのでは?との問いに)いやいや、それはないよ。彼はインタビューで『The Dark Side of the Moon』の歌詞について強調しつつ、もっといいアルバムがある、それが『Amused to Death』だと言っていた。それを聞いた時、私はどうしてこのアルバムがもっと注目されないんだ?と思った。理由はレコード会社にとっては気が滅入るようなアルバムだったからだと思う。

 

新しいものを探し、次に進む

(私のキャリアは)他の人を通して広がっていくことだったと思う。バンドの中に閉じこもっていると四方を壁に覆われてしまう。バンドの中にいると制限があるせいで、なかなか止められないんだ。たとえ成功したバンドでも、その壁の外に出にあるものを吸収できていないだろう。制限されてしまうんだ。しかしどんなものでも実のあるものがあるのなら、それをつかみ取らないといけない。

 

私は常に新しいものを探している。次に進んで行く。それが私のキャリアの全てなんだ。

 

 

 

出典:

www.rockcellarmagazine.com