ジェフ・ベックが『Blow by Blow』リリース時(1975年)に語ったインタビュー

f:id:musique2013:20170114235831j:plain

 

まもなく2017年の来日公演が始まるジェフ・ベックは、最近でこそ自分のギタースタイルや音楽について饒舌に語るようになったが、かつてはあまりインタビューを受けなかったといわれている。

 

このインタビューは1975年11月の「Guitar Player」誌に掲載された当時のインタビュー(Jeff Beck's Classic 'Blow by Blow' Interview in Guitar Player November 1975)。

 

ヴォーカルとともに演奏するスタイルは1973年のベック・ボガート&アピスでいったん終え、『Blow by Blow』でインストルメンタル・ギタリストとしてのスタイルを確立したばかりのころだ。

 

40年以上前のものだが、今のベックを追いかけるためにヒントになることを多く語ってくれている。

 

 

 

ジャズの方向性を取り入れたのは表現のためですか、それとも技術面で挑戦してみたかったのですか?

両方だ。技術的な挑戦はあまりなかったよ。もし何か自分にできないことがあれば、私はそれをやらないからね。しかしふつうのロック以外の音楽を自分が演奏しているのを聴くのはいいものだよ。 

 

あなたがこの方向に進むようになるきっかけとなったレコードは何かあるのですか?

私はレコードフリークではないからね。テープを手に入れたら、どこかドライブしているときに車の中で聴く。座って信心深くレコードに耳を傾けるようなことはしない。ビリー・コブハムスタンリー・クラーク、それから優れたロックンローラーたちは私を驚かせてくれる。そんな音楽のテープをひとまとめ手に入れるだけだ。私はビリー・コブハムロックンローラーだと思う。彼はとても力強いからだ。私にとってロックとはエネルギーだ。昔に比べると今はもっと複雑になってしまったが、それでもロックはロックだ。

  

しかし演奏の仕方は1968年の『Truth』とはまったく違いますね。

違うね。あの演奏はもうやらなくなった。終わったんだよ。みんな同じことをやってきた。ハンブル・パイなんかがそうだ。ミック・ロンソンもやろうとしていたし、ジミー・ペイジは今でもやっていて、ついにあれで成功した。彼はそれで生活しているんだ。

 

観客たち、とくに古くからのファンたちは、ロックサウンドにうんざりしていると思いますか?

うんざりはしてないが、彼らはどこかほかのところに導かれる必要がある。古くからのファンたちは何か別のものに夢中になれるチャンスを与えられるべきなんだ。私がグループを率いてライヴをし、社会の腐敗について歌い、「I Ain’t Superstitious」を演奏してノスタルジアに浸らせることもできる。しかしそんなことをしたって新しくもなんともない。むしろ「Cause We’ve Ended As Lovers」といったある種の格調あるものを聴きかせて、観客に叫び声をあげさせたい。スティーヴィー・ワンダーが書いたからあの曲には格調があるんだ。

 

技術面で、あなたのギタープレイに特に影響を与えたミュージシャンはいるのですか?

いるよ。ヤン・ハマーを聴いてきた。彼はかつてマハヴィシュヌ・オーケストラでムーグを演奏していた。スペクトラムビリー・コブハムとも演奏していた。彼の演奏のおかげで私は将来を新たに見据えることができたんだ。彼はムーグをギターのように弾く。そしてそのサウンドが直接私に響いてくるんだ。だから私は彼のように演奏することにした。彼のように聴こえる演奏をする、ということじゃない。しかし彼のフレーズは私に多大な影響を与えた。 

 

スケールの演奏は多くやりますか?

いいや、私は自分が聴きたいと思う音を演奏する。スケールの練習はしない。とても難しいからね。いやになっちゃうんだ。実際は、その反対だよ。私は難しく聴こえるものを簡単にして演奏するのが好きなんだ。 

 

しかし『Blow by Blow』の収録曲の中にはジャズのスタイルでネックを高速で駆け上がってゆく演奏をしています。例えば5年前に、すでにあの演奏ができたのですか?

ああ、できたよ。そのときやっていた音楽には全くそぐわなかったからやらなかったんだ。まるでいつも演奏技術を見せびらかしているように聴こえてしまっただろう。あの演奏法は複雑なリズムセクションのときによく合うものだ。 

 

楽譜を読む勉強になりましたか?

全然役立たないよ。結局あの黒い点など誰も追っていないんだ。音符の黒い点一つひとつを演奏すれば観客が拍手してくれるっていうものではない。聴いた演奏が良かったとき拍手をしてくれるんだ。私はそのように考えている。コンサート・ピアニストたちが作り出した標準ルールからはだいぶ離れた考え方だ。楽譜に書かれたとおりに演奏しないと観客はブーイングする。コンサートで最後の音符を間違えただけでそうなるんだ(笑)あれは私には重すぎるよ。 

 

それでは、今でもかなり即興で演奏しているんですか?

ああ、そうだよ。ただ漫然と弾きまくるんだ。音楽で自分を制限してしまうのは意味がない。音楽というものは私たちに自由を与えるためにあるんだ。

 

 

 

ベック・ボガート&アピスのあとは誰かとジャムセッションをしてきたのですか?

私はジャムセッションはしない。私はカントリー・ボーイだから、家や庭、車などいつもやることが身の回りにある。そしてやるべきことを終えたら、リラックスするために演奏する。 朝食の時間に起きて練習に向かうなんてことはしないんだ。 

 

では一日6時間練習するようなタイプではないんですね?

そういうタイプじゃない。スーパーギタリストを目指すのならその方法がいい。でもすぐ消えてしまうだろう。キャリアのピークにたどり着くのが早すぎるんだ。私は死ぬ直前にピークに達したいんだよ(笑) 

 

マックス・ミドルトンはジャズの影響を強く受けたキーボーディストですが、彼との演奏はあなたの音楽の発展に役立ちましたか?

まさしくその通りだ。何かを演奏に取り入れたいとき、私はマックスに電話をする。彼は私が思い描いているとおりの演奏をしてくれるからだ。彼がバックでやってくれる演奏は本当に優れているから、単なる一音ですら素晴らしい音になるのだ。彼は私がやりたいと思っていることへ突き動かしてくれる。とても熱意のある人なんだ。 

 

彼があなたを引き出してくれたのですか?

私が表に出すことをためらっていたテイストのようなものを私から引き出してくれたんだ。 

 

全然悪くないじゃありませんか。

悪くないよ。しかし音楽から私をつまみ出してしまうかもしれないだろう(笑) 

 

「Diamond Dust」ではオーケストラが取り入れられています。ストリングスと一緒に仕事をするのに何か大変なことはありましたか?

最初にあれを聴いたとき、私は好きになれなかった。ストリングス抜きのバージョンに慣れていたからだ。つまりこういう感じだ ― 朝いい気分でスタジオに行って、「ああ、これはよくできた。このままにしておこう」と思う。それからオーバーダブをしてみて、曲がミックスされていろいろと手を加えられたものを聴く。そうしているうちにそのミックスに慣れてくる。するとストリングスの入ったバージョンを聴いて「おお、これはすごい!」と思う。でもそこでリリースしてしまうのは安直すぎる。しばらくそのバージョンを聴き続けてみる必要があるんだ。レコーディングしたものを家に持ち帰って、公正な耳で聴けるようになるまでその曲を聴いてみる。一か月くらいしてみて、もしレコーディングが気に入らなかったらお蔵入りにしてしまうけどね。 

 

 

 

機材は何か変えましたか?

今でも同じワット数の機材をつかっている。フェンダーの200ワットのスピーカーキャビネット2台とマーシャルのアンプヘッド2台だ。アンプにはマイクを接続したけどね。以前はSunnアンプをつかっていた。マーシャルのアンプヘッドは求めている勇ましい感じの音が出るが、Sunnの場合は少しきれいすぎる。スピーカーはフェンダーのほうがマーシャルのものよりも頼もしいが、アンプヘッドはマーシャルのほうがいいと思うよ。 

 

アルバムでもツアーでもレス・ポール・スタンダードの1954年モデルを使っていますが、ストラトキャスターも使っていますね。もうストラトは弾かないのかと思っていました。

そうだね、なんでだかわからないが。ボディを抱えて演奏するには扱いにくいギターだが、ステージ用としてはいいギターだ。いいギターだし、高音がその場の雰囲気に響き渡るんだよ。 

 

ギターアクセサリーには何をつかっているのですか?

オーバードライヴ・ブースターとワウペダルだ。ブースターはプリアンプでファズペダルではないけど、パワーと抑制、そしてディストーションが即時にできる。 

 

ギターがしゃべっているように聞こえるチューブ(トーキング・モジュレーターのこと)はどんな仕組みなのですか?

あれはチューブをとおってギターからシグナルが上がって来るものなんだ。私が音を爪弾くと、チューブをとおって私の口の中に届く。そして口の中で「演奏」すると、自分の口の動きに合わせて出したい音が出せるんだ。あれはすでに40年前に発明されていた。「 Sparky’s Magic Piano」のレコード中で使われている。

 

 

(この動画の3:10からトーキング・モジュレーターのパートが始まる)

 

このストーリーの中で、スパーキーはピアノレッスンに行き、ピアノが実は生きていて彼に語り掛けることを夢見る。ピアノのコードが「スパ~キ~」っていうんだ。あれはすごい。そこからこのアイデアが来たんだ。 

 

もし言葉にすることができるとしたら、あなたが今作っている音楽を何と呼びますか?

ロックとマハヴィシュヌ(・オーケストラ)をまたぐもの、もしくはジャズロックだ。二つの間にあるたくさんのギャップを橋渡しするものだ。より受け入れやすく、つまりマハヴィシュヌの音楽よりもとらえやすいリズムになっている。しかし、やはり本流からは外れているものだ。 

 

ロックンロールの型にはまっているギタリストたちがたくさんいます。彼らがその型から抜け出し、新たな音楽の流れに乗り込んで行けるようにどのようなアドバイスをしますか?

私がそれを言ってしまったら、彼らにとっては簡単なことになってしまう。私は型から抜け出すために人生の半分を費やしてきたんだ。とにかく自分のベストを尽くすしかない。いっしょに演奏したいバンドを見つけ、前進していくんだ。落ち込んでいたとしても、それは個人のレベルの話だ。落ち込みから自分を引き上げ、演奏を始める。自分の周りがジャンプし始めたら自分もジャンプするんだ。音楽はいつも自分の生活で起こっていることを反映するものなんだよ。