ジェフ・ベック 2010年のインタビュー 「ライヴ演奏こそ音楽の王様」
(http://www.rollingstone.com/music/pictures/crossroads-2010-20100628/jeff-beck-24497084)
2010年3月、ジェフ・ベックがイギリスの新聞「The Daily Telegraph」のインタビューに答えたものを紹介する。
冒頭、インタビュー中のジェフ・ベックの様子が以下のように描写されているのが興味深い。
ジェフ・ベックが本当に真剣になるのは音楽そのものについて話すときだ。
大変な熱意を持って語ってくれる。
しかしそれ以外のことになると、ユーモアを交えてしゃべりづらそうに話すのだ。
Q. アルバム『Emotion and Commotion』でグラミーのベスト・ロック・インストルメンタル・パフォーマンス賞を受賞したことについて:
私と同じくらい長いキャリアを積んでくれば、何かしらの賞を受賞できるようになっているんだ。
Q. 1967年、「Hi Ho Silver Lining」でポップソングを歌いヒットさせたことについて:
あのときのことは、すべてが嫌な思い出だ。
当時の私のマネージャーはロッド・スチュアートにまったく興味を示さなかった。
「なんでこんな女々しい野郎がバンドに必要なんだ?」なんて言っていた。
だからこの曲は自分で歌わなくてはいけなかった。
しかし私は限界がある自分のヴォーカル能力がとても恥ずかしかった。
私は2時間だけスタジオにいて、すぐ出てきた。
帰るとき、受付嬢がこの歌を口ずさんでいたんだ。
これはひどいことになるぞ、って思ったよ。
でもヒット曲が一つでもあるということは、そんなに悪いことではないと思う。
なかなか良いのギターソロも入っている。
もし田舎の結婚式であの曲を聴いたみんながいい気分になれるのなら、悪い曲じゃないんだろう。
Q. 1975年にミック・テイラーがローリング・ストーンズを脱退したとき、ストーンズへの加入を打診され、実際一緒に演奏したことについて:
ストーンズは、ロッテルダムでいくつかの曲に参加して欲しい、と連絡してきた。
現場に到着すると、400本ものギターに別々の名札がついて並べられているのを見つけた。
私は「これは全部キースのギターかい?」と聞くと、連中は「違うよ、これからオーディションに来るギタリストたちに弾かせるものだ」と言った。
「ちょっと待て、俺はオーディションに来ているんじゃないぞ!」と言うと、彼らは「違うとも。お前はここで俺たちと一緒に演奏をする。それから俺たちはほかのギタリストたちに“もう来る必要はない”と伝えるんだ」と説明した。
半ば強引に引き込まれた感じだったんだ。
だから自分はどの道を進むのか決断をしなくてはいけなかった。
結局、ストーンズとはリハーサル1回でもうたくさんだった。
ストーンズと一緒に演奏していると、とても古風で変わっている感じがした。
その頃の私は激しいリフとビリー・コブラムのリズムにのめり込んでいたから、ストーンズで役に立てるはずがなかった。
私はイアン・スチュアート(ストーンズのロード・マネージャー)のホテルの部屋のドアの下にメモ書きを忍ばせた―“間違いだった”と書いてね。
そして私はそこを去った。
後悔はしていない。
よく考えてみれば分かる。
自分がステージのセンターにいて、チケットには私の名前が書いてあり、私がステージに出て行って歌なしの曲を演奏をする。
この特権をどこかのバンドの加入権と交換する人がいるかい?
Q. 1960年代、ジミ・ヘンドリックスの演奏を聴いて衝撃を受けたことについて:
私が気づいたことは、ジミの演奏する素晴らしいブルースだけではなく、ギターに襲い掛かるように演奏するそのスタイルだった。
彼のアクションは、合図を出せば一気に爆発するひとつのまとまりのようだったのだ。
彼の登場は地震のように私に衝撃を与えた。
自分はこれから何をやるべきか、ずっと真剣に考えなければいけなかった。
このときの傷はとても深くて、自分でその傷をいたわらなければいけないほどだった。
ギターで何か別のことができないか、新しい分野はないか、といつも探してきた。
これこそ自分がやるべきことだ、と私が自分で感じる必要がある。
もし自分がやるべきだと感じないものならば、自分ではやらないんだ。
Q. 最近の優秀なギタリストについて:
彼らと同じ立場となると、自分は小心者になってしまうよ。
新しく出てくるギタリストたちに負けたくないんだ。
ジャック・ホワイトには驚かされた。
ホワイト・ストライプはまさに正統派の演奏家だ。
ちょうどレッド・ツェッペリンのようだ。
私は派手なヘヴィ・メタルは好きではない。
我慢がならない。
アンプをたくさん置いて、ヴォリュームを最大限にして演奏する彼らのやり方は、ただ単に耳を襲ってくるだけだ。
速弾きをするギタリストたちを聴くと、自分が孤立しているとは感じないが、戸惑いを覚えてしまう。
ギターとアンプには、微妙な感覚が備えられており、私たちはその感覚を発見しなければいけない。
しかし、速弾きのギタリストたちは色々な効果を積み重ねることで、この微妙な感覚を完全に聞き取れないものにしてしまっている。
ギターにはそんな速弾きは必要ない。
Q. コンピューターで音楽を「作る」ことについて:
コンピューターは歩行器みたいなものだ。
音をひとつ出せば、それを使ってアルバム一枚を作り上げることができる。
これは便利だが本物じゃない。
描かれたものに過ぎない。
音楽はいったいどこに行っちゃったんだ?
自分が素晴らしいアルバムだと思えるものにはまだ近づいていない。
しかしレコードは面倒なものだ。
レコードって奴は嘘つきだからね。
やはりライヴ演奏こそ音楽の王様だ。
あるアーティストがステージの上で自分の仕事をし、何千人もの人がそれに応える。
ライヴと言うのはそんな経験をすることだ。
よいアンプとひとりの演奏家がいればそれで十分だ。
そうすれば自分が表したいことにより近づくことができるんだよ。
ロニー・ウッド~世界一愛されたギタリスト (シンコー・ミュージックMOOK)