ポール・マッカートニー 「エピフォン・テキサン 1964年モデル」について語る その1
ポール・マッカートニーが今でも「イエスタデイ」を歌うときに演奏するアコースティック・ギター「エピフォン・テキサン 1964年モデル」。2004年にその完全レプリカである「ポール・マッカートニー・モデル」が製造され、限定発売された。
その時に行ったインタビューでは、ポールの金銭感覚なども含め、興味深いコメントがある。
出典:Classic interview: Paul McCartney talks acoustic guitar, 2004 | MusicRadar
以下、全3回に分けて紹介したい。
【自身のシグネチャーモデルについて】
シグネチャーモデルのギターとかについては、僕は一度も関わったことがなかった。でも今回のものは「Adopt-A-Minefield」というチャリティにお金が回るようになっているはずだ。だからやることにしたよ。
何年もたって、またエピフォン・テキサンをツアーで弾き始めた。昔の映像で自分が演奏しているのも見た。僕のギターをメンテしてくれているジョン・ハメルと話したんだ。そうしたら、このギターはとても歴史的な楽器だってことがわかった。
自分の持っている楽器が歴史的なものだなんて考えてもみなかった。単に僕の楽器でしかなかったからね。でもスクリーンでこの楽器を持っている自分を見ると、僕が特別に見えてくるんだ。それ以来、このギターを再現するのはとても楽しいと思ったんだ。そしてギブソンとこのモデルの制作について打ち合わせを始めた。この一連のプロセスがとても名誉あることだと思ったよ。
モデルを作った人は僕のギターのすごく細かいところまで正確に再現していて、驚くよ。でもこのモデルはとてもいい演奏ができる、そこがとてもエキサイティングだ。
実際に僕は、このプロジェクトをギブソンと進めてくれたパット・フォリーに言ったんだ。「僕の持っているギターについている小さな割れ目まで正確にコピーしているけど、やっぱりいい音のするギターじゃなければいけない」ってね。だからこうやっていい音がするんだ。
【エピフォン・テキサンは200ドル未満の低価格ギター】
(1965年にビートルズがエド・サリヴァン・ショーに出演した時も、ポールはこの175ドルのエピフォン・テキサンで「Yesterday」を弾いている。)
僕は父親から受け継いだ考え方に縛られているとこがあって、すこし気恥ずかしくなることがあるよ。親父は僕に絶対借金をしてはいけない、って教えたんだ。子供のころは、決して貧しくはなかったけど、大金が転がり込んでくる状態ではなかったからね。
はじめてのギターはエピフォン・ゼニスで、15ポンドだったのを分割払いで買った。だから毎月一定額を支払わなければいけなかった。このせいで僕は親父の前で震える羽目になったんだよ。親父の顔に何かを恐れている表情が現れた。つまり「借金だ!」って感じだった。「絶対に他人に負債を負ってはいけない」と親父に教わったんだよ。これはとても素晴らしい助言だったと思う。
もちろん今までいつも素晴らしい楽器を求め続けてきたけど、同時に高すぎないものでなければいけなかった。たとえ自分が払えたとしてもね。これは僕がフェンダー・ベースを手に入れる何年も前のことだよ。フェンダー・ベースの音は素晴らしいことは知っていたけど。
僕が引いているヘフナーは形が左右対処で、逆さに持ってもおかしく見えない。でも同時に、ヘフナーは値段が高すぎなかった。たぶんエピフォンについても同じ選び方をしたと思うよ。エピフォンは最高品質・最高金額のギターじゃない、でも親父が僕に植え付けた考え方があったんだ。たぶん僕はそれをずっと無くすことはないだろうね。
【エピフォン・テキサンで作曲した曲】
どの楽器でどの曲を書いたかはあまり覚えていないな。僕はテクニカルな面はあまり得意じゃないから、たまに恥ずかしくなることがあるよ。曲をまとめて聴いてみると分かるかもしれない、この曲はこのギターだ、とかね。でも自分で演奏する楽器については僕は結構無頓着だったりするんだ。
その日に気の向いた楽器を手にする。昨日はマーティンを引いたから、今日はエピフォンにしようかな、いや待てよ、ギブソン・エヴァリー・ブラザーズにしよう、といった感じだ。
【「イエスタデイ」について】
「Yesterday」は夢の中で聞こえた曲だったけど、ギターのフィンガーピッキングは夢の中で聞こえたわけじゃないよ(笑)。ただ「Yesterday」のメロディが聞こえてきたから、目が覚めてベッドを出たら、ピアノに向かったんだ。作曲はふつうピアノかアコースティック・ギターでやる。その両方を使う感じかな。
(「Yesterday」はFコードで始まりますが、あなたはチューニングを一音下げてGコードの押さえ方で演奏できるようにしていますね。あれは低音が良く流れるようにですか?)
それも理由の一つだよ。あと、Gのままだと歌うのには少し高すぎた。それから、バックで流れているストリングス・カルテットにとってもFのほうが良かったんだ。
(「ポール・マッカートニー 「エピフォン・テキサン 1964年モデル」について語る その2 - ロックの歴史を追いかける」へ続く)