ボブ・ディラン『Desire』40周年 ヴァイオリニスト スカーレット・リヴェラが語るレコーディングの様子

1976年1月、ボブ・ディランは『Desire』をリリースした。

 

冒頭の「Hurricane」を始め、このアルバムの収録曲には美しいヴァイオリンがフィーチャーされており、全体に独自の印象を与える大きな役割を果たしている。

 

このヴァイオリンを担当したのはスカーレット・リヴェラという女流ヴァイオリニストであった。

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レコーディング当時リヴェラは25歳。

 

ニューヨークの街道をケースに入れたヴァイオリンを手にしながら歩いていたとき、目の前にあまり見た目の良くないグリーンの車が横切った。

 

その車窓から突然男性が首をだし、リヴェラに声をかけた。

 

それがディランであったという。

 

【ディランとの巡りあわせ】

後にリヴェラはこう語っている。

 

「百万分の一の確率でディランと巡り合ったのです。私は自分のリハーサルのために通りを横切りアパートの地下に降りていくところでした。もし私がディランの車より先にその通りを渡っていたら、彼に声をかけてもらうことはなかったのです」

 

「あそこでディランと出会わなかったら私の人生は違っていたでしょう。あの出会いによって私の人生のすべてが彩られました。彼と出会うことによって、開かれるはずのなかった扉が開き、得られるはずのなかった信頼を得ることができたのです」

 

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「後年にはデューク・エリントン・オーケストラとも演奏することが出来ました。もちろんジャズの世界ですから、ボブ・ディランが口利きをしてくれたわけではありませんし、ディランと一緒に演奏した経験などジャズの人たちは関心がありません。しかしそれでも、ディランとの共演がきっかけでそういったすべてが実現したのだと思います」

 

【リヴェラが語るディラン像】

「成功というものは、チャンスや才能、技能といったものが絡み合ったとき、初めてそれがどんなものかを知ることができるのです。もし私がディランを満足させるだけのものを持っていなかったら、おそらく私は60秒で消え去ったでしょう。ディランはファンであろうがバンドメンバーであろうが、何の問題もなく首を切れる人です(笑)。ディランがそのときに望んでいるものに満たないようであれば、その人は去ることになります」

 

「私はグルーピーのようなことはしたことがありません。誰かの出待ちようなことは一度もやらなかった。しかし私はずっとディランのファンでした。私の心に目があるとすれば、それはずっとディランを見ていました。音楽家として、彼は私が芸術的な面で尊敬する人のトップにいたのです」

 

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「『Desire』のセッションでは、ディランはまったく指示を与えてくれませんでした。No directionでした。No direction home(笑)。ですから、いったんスタジオに入ったら、まさに「泳ぐか、それとも沈むか」という状況だったのです。ですから私は「泳ぐ」ことにしました」

 

「私は絶対音感があり、また指示をされなくてもキーを正確に追うことが出来ました。ディランは、たとえば「下のほうを弾いてくれ」と言ってきます。これは低音部のことを言っているのです。またあるときは、彼がハーモニカのソロを吹きだしたので、私がヴァイオリンを止めると「止めちゃだめだ、一緒に演奏してくれ」と言ってきました。私は彼のハーモニカと一緒に演奏できることにとても驚き、ほめられたような気分になりましたが、そんなことを考えている暇はありませんでした」

 

   

 

【『Desire』における自分の演奏について】

「あの時の私の演奏はきわめて自然だったと思います。私のスタイルは確立したかたちで『Desire』に現れていると思います。その私のスタイルを浮かび上がらせてくれたのが、あのレコードの曲だったのです」

 

「同じスタジオ内でリハーサルとレコーディングの両方を行ったため、この私のスタイルはとても早く導き出されなければいけませんでした。自宅に帰って聴き直し、別のことを試してみる時間などなかったのです。その場で試し、2テイクで完成させる必要がありました。1テイクの時もあったのです」

 

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『Desire』におけるリヴェラの演奏が「haunting」(耳に残り忘れられない、しばしば思い出す、の意)と評されていることについて「私もそう言われるのが大好きです」と述べている。 

 

【Rolling Thunder Revueへと続く】

1975年10月には『Desire』のレコーディングを終わらせたディランたちは、その後「Rolling Thunder Revueツアー」のリハーサルを開始する。

 

リヴェラは1976年5月まで続いたこのライヴツアーにも参加しており、1975年のパフォーマンスは『The Bootleg Series Vol. 5: Bob Dylan Live 1975, The Rolling Thunder Revue』で、76年のパフォーマンスは『Hard Rain』で聴くことができる。

 

 

リヴェラはその後ボブ・ディランとの共演はしていないようだが、後年はアメリカのみならず、ヨーロッパや日本での公演も行うなど、現在でも活躍している。

 

【『Desire』関連記事】 

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(参照)

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