ビーチ・ボーイズとボブ・ディラン レコードの片面に表れた新しい方向性

 

今から半世紀前の1965年3月。

 

アメリカの二組のアーティストが、それぞれ自分たちの音楽の新たな方向性を「レコードの片面」のみに収録するというやり方で表していた。

 

世間やレコード会社からの「求められるイメージ」との戦いのようなものが、そこに見えるかもしれない。

 

ビーチ・ボーイズの場合】

 

1965年3月8日、ザ・ビーチ・ボーイズは8枚目のスタジオ・アルバム『The Beach Boys Today!』をリリースした。

 

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前年の12月、ブライアン・ウィルソンは神経衰弱に陥り、マリファナを使い始めた。さらにはツアーに同行せずスタジオに閉じこもり、レコーディング・アーティストとしての活動に集中することになる。

 

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ブライアンはちょうどその頃、バンドとしての新しい音作りに熱中しだしたところであった。

 

一方マネジメント側は、従来のポップ・ロック路線でヒット・シングルをリリースし、ツアーで稼ぐことをバンドに要求していた。

 

『Today!』はちょうどそんな時期に作られたアルバムで、それぞれの要望・要求が対立する中、結局レコードのA面とB面でコンセプトを分ける方法をとった。

 

「Do You Wanna Dance?」ではじまり「Dance, Dance, Dance」で終わるA面は、従来からのポップなビーチ・ボーイズ・サウンドの曲で占められている。

 

 

 

しかしこのA面も、従来の路線を踏襲しているのは曲調のみであった。

 

歌詞には「Summer、surfing、car、teenager」などと言った「Surfin’ USA」と同じ系統の曲は見当たらない。むしろ「When I Grow Up To Be A Man」などにより、従来のイメージから卒業しようとしているかのように見える。

 

またB面には「Please Let Me Wonder」「She Knows Me Too Well」など、内省的な観察眼による言葉で歌った曲が収録されており、直接的でシンプルな表現のラブソングは姿を消した。

 

 

 

こうした歌詞やテーマの深みを象徴するように、特にB面でブライアンの作りだした音は重層感を持ち、中にはエレキ・ギターが前面に押し出されていないものもある。

 

これらの曲をレコーディングするに当たり、通常のビーチ・ボーイズの編成ではもちろん足りず、サックス、フレンチホーン、ヴァイオリン、チェロ、ヴィブラホンといったセッションミュージシャンたちが多く参加しているという。

 

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ブライアンはこのような音楽づくりをしたため、『Today!』リリース後にはレコード会社キャピトルに呼び出され、アルバム製作の意図を説明させられたらしい。

 

さらに次のアルバム『Summer Days (And Summer Nights!!)』では、かつてのサーフィン・ソングでアルバムを作らされる結果になった。

 

 

 

しかしながら、翌1966年、ブライアンの才能は傑作『Pet Sounds』という形で証明されるのである。

 

 

 

   

 

ボブ・ディランの場合】

 

ビーチ・ボーイズ『Today!』のリリースから2週間たった3月22日、ボブ・ディランは5枚目のスタジオ・アルバム『Bringing It All Back Home』をリリースした。

 

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このレコードのA面とB面もまた、それぞれの収録曲の特徴にはっきりとした区別が付けられている(少なくともそのように見える)。

 

「Subterranean Homesick Blues」で始まるA面は、エレキ・ギターやドラムがフィーチャーされ、ロック調にアレンジされた曲で占められている一方、B面は「Mr. Tambourine Man」「It's All Over Now, Baby Blue」など、アコースティック・ギターにハーモニカという、それまでのディランのスタイルで歌われている。

 

 

 

前年の1964年には、すでにディランはプロテスト・ソングや伝統的なフォーク・ソングを歌ったり書いたりしなくなっていた。

 

アコースティックの曲で占められている『Bringing It All Back Home』のB面も、演奏や歌のスタイルは従来の方法を引き継いでいながら、歌詞の内容はいわゆる“哲学的で難解”という、その後のディランの傾向がすでに始まっていた。

 

ディランはこのアルバムのリリース時、ジョン・バエズジョイント・ツアーに出ていた。しかしディランが伝統的フォーク・ソングから距離をおいたり、エレキ・ギターを弾き出したりしたことから、二人は1975年まで共演することがなくなった。

 

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またほかのフォーク・ミュージシャンたちも、ディランとは共演しなくなっていった。

 

一方ディラン本人は、次の『Highway 61 Revisited』『Blonde on Blonde』と傑作を生み出し、新しいスタイルを確立していったのである。