ボブ・ディラン『Highway 61 Revisited』のプロデューサー、ボブ・ジョンストン氏死去
1965年8月、ボブ・ディランは『Highway 61 Revisited』をリリースした。
奇しくもそのちょうど50年後にあたる2015年8月、このアルバムをプロデュースしたボブ・ジョンストンが死去した。享年83歳。
【ボブ・ジョンストンという人物】
ジョンストンはもともと自分自身で曲を書き、またロカビリーシンガーとしても活躍していた。
1950年代後半からはプロデュースもするようになり、いくつかの小規模レーベルで仕事をし、その後ニューヨークのコロンビア・レコードでプロデューサーとしての仕事を始めた。
このコロンビア・レコードで、すでに名プロデューサーであったジョン・ハモンドと知り合い、彼の紹介でビッグ・アーティストのプロデュースを担当するようになり、そのうちの一人がボブ・ディランであった。
(ディランとジョン・ハモンド)
【『Highway 61 Revisited』のバトンタッチ】
1965年6月、ボブ・ディランは「Like a Rolling Stone」をレコーディングした。
このレコーディングには、トム・ウィルソンがプロデューサーとして参加していた。
(トム・ウィルソン)
トム・ウィルソンは『The Freewheelin’ Bob Dylan』以来、ディランのアルバムをプロデュースをしてきた人物であり、アコースティック専門のフォークシンガーからエレキサウンドで歌うロックの詩人への、ディランの変貌を手助けしてきた人であった。
しかし「Like a Rolling Stone」はウィルソンがプロデュースした最後のディランの曲となる。
伝えられているところによると、「Like a Rolling Stone」でアル・クーパーが弾いたオルガンを巡ってディランとウィルソンの間に意見の相違が起き、その結果ウィルソンが降ろされた、ということらしい。
(アル・クーパー)
アル・クーパーが飛び入りで弾いたオルガン演奏を気に入ったディランが、オルガンの音を最大まで上げるよう要求した。
しかしその日、クーパーはサイドギターを担当するサポートミュージシャンとしてスタジオに呼ばれていたため、ウィルソンは「彼(クーパー)はオルガン奏者じゃない」と、ディランの要求に応じようとしなかった。
しかし、「そんなことどうでもいい。オルガン奏者が誰かを聞いてるんじゃない。とにかくオルガンの音を上げろ」とディランは突っぱねた。
結局、リリースされたテイクでは、今日私たちが聴いているようにアル・クーパーのオルガンが前面に押し出されている。
【ディランの偉業の立役者】
こうして、新しいアルバムのために1曲だけレコーディングされたところで、ボブ・ジョンストンはトム・ウィルソンからバトンタッチを受け、『Highway 61 Revisited』を完成させた。
ディランはジョンストンについて「レスラーのような体つきで、太い手首と大きな腕、樽のような胸をしていた。背は高くなかったが、実際よりも大きく見せるようなキャラクターだった」と語っている。
(ディラン、ジョニー・キャッシュ、ボブ・ジョンストン)
『Highway 61 Revisited』がランドマーク的な大成功をおさめたのは「Like a Rolling Stone」によるところが大きいのは事実である。
その意味では、このアルバムの成功をジョンストンだけに帰するのはあまり公平ではないであろう。
しかしこのアルバムのみならず、その後の『Blonde on Blonde』 (1966), 『John Wesley Harding』 (1967), 『Nashville Skyline』(1969), 『Self Portrait』(1970), 『New Morning』(1970)まで、ボブ・ジョンストンがプロデュースしている。
つまり、ジョンストンがディランの確固たる偉業の立役者の一人と言って間違いない。
翌年リリースされた『Blonde on Blonde』のレコーディングでは、ディランを説得しナッシュヴィルに連れてゆき、そこで現地の優れたミュージシャンたちとセッションさせた。
このLP2枚組のクオリティの高さは、ナッシュヴィルでのレコーディングによるところが大きいといわれている。
また『John Wesley Harding』にスティール・ギターを取り入れることをディランに提案したのもジョンストンである。
ちなみに1969年リリースの『Nashville Skyline』の3曲目「To Be Alone with You」の冒頭で、「Is it rolling, Bob?」とディランが語りかけている「ボブ」はボブ・ジョンストンである。
Bob Dylan: The Playboy Interviews (50 Years of the Playboy Interview) (English Edition)