ボブ・ディラン&ザ・バンド 「Open The Door, Homer」は古代ギリシャの詩人ホメロスにささげた歌か?
ボブ・ディラン&ザ・バンドの『地下室(The Basement Tapes)』に収録されている「Open The Door, Homer」。
ふつう、Homerは“ホメロス”のことを指す。
紀元前8世紀のギリシャの詩人で、『イリアス』や『オデュッセイア』を記したことで文学史に名を残す人物である。
一方、1947年にカウント・ベイシー・オーケストラがリリースしてヒットした曲に「Open The Door, Richard」というのがある。
バンドのメンバーたちが夜遅く家に着くが、鍵がかかっていて入れない。
鍵を持っているのはリチャードだけで、すでに家の中にいる。
そこでメンバー一同がリチャードを呼び、ドアを開けてくれと頼み続ける ・・・というの内容の歌である。
このカウント・ベイシーの曲から20年後。
自宅に引きこもってザ・バンドのメンバーたちと地下室でレコーディング・セッションを続けていたボブ・ディランは、ほぼ間違いなくこの曲をベースに「Open The Door, Homer」を書いたと思われる。
興味深いことに、この歌には「Homer」は出てこない。
オフィシャル・ウェブサイトで読めるこの歌の歌詞には、「Open the door, Homer/ I’ve heard it said before」と「Homer」書かれている。
しかし、この歌でディランは「Open the door, Richard」と歌っているのだ。
ではなぜディランはこの歌のタイトルをそのまま「Richard」にせず、全く登場しない「Homer」に変えたのか?
一説によれば、このHomerは古代ギリシャのホメロスではなく、ある人物のニックネームであったという。
それはこの人物らしい(男性のほう)。
彼は「リチャード・ファリーニャ」。
ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジでディランと知り合い、初期のディランと近い友人の一人であったという。
(コップを持っているのがリチャード・ファリーニャ)
ファリーニャ自身も夫人(ミミ・バエズ)とともに曲を書き、レコードを出している。
また学生時代から短編作家として活動しており、1966年には小説を出版した。
しかしその出版から二日後、交通事故で死亡した。
この人物を思い描きながらこの曲を書き、タイトルには彼のニックネームであった「Homer」を使ったのだろう、と言うのがディラン・ファンの間で信じられていることらしい。
また、ザ・バンドで鍵盤楽器を担当していたのがリチャード・マニュエルであったためタイトルで「Richard」使うことを避けた、という説もある。
(リチャード・マニュエルとディラン)
ディランはまだ存命のみならず現役バリバリのアーティストであるにもかかわらず、ディラン本人が自作についてほとんど語らない。
そのため、熱心なファンの間ですらこのような推測の域を出ない情報が出回っているのである。