キース・リチャーズのフェンダー・テレキャスター「ミコーバー」の歴史を追いかける
キース・リチャーズのトレードマークのようになっているこのフェンダー・テレキャスターは、ローリング・ストーンズが南フランスで『Exile on Main St.』のレコーディングをしていたときに届けられた。 キース27歳の誕生日の祝いにエリック・クラプトンから贈られたものだった。
当時のイギリスでは年収が15,000ポンドを超える場合は90%の税金をかけられることになっており、ストーンズはこれから逃れるために税務上の居住地をイギリス国外にする必要があったのである。
キースは、これはイギリス政府がトラブル続きのロックバンドを追い出すためにとった方法だった、という発言をしている。
『Exile on Main St.』のレコーディング中に撮影された写真の中に、キースがこのテレキャスターを弾いているものが残っている。 このときのテレキャスターはピックアップやネック、ボディの塗装などが、まだフェンダーの製造工場から出荷されたばかりの組み合わせになっていた。
キースがこのギターからEの6弦を外し5弦ギターにして、さらにチューニングをオープンG(G、D、G、B、D)にしたのもこの時期だった(始めは「D、G、D、G、B、D」の6弦オープンGで弾いていた、という話もある)。
アルバムがリリースされるとストーンズは大規模なツアーに出る。 これがこのテレキャスターのライヴでのお披露目でもあった。
ツアーの中盤で当時キースのギターテックだったテッド・ニューマンにより、ネックのピックアップをもとのフェンダー製のものからギブソンのPAFハムバッカーに取り替えられている。
またブリッジ・ピックアップもフェンダーのラップスティール・ピックアップに取り替えられた。ラップスティール・ピックアップはフェンダー・ブロードキャスターのピックアップと似ている。
「ミコーバー 」
1980年代に入ると、キースはこのギターを「ミコーバー」と呼ぶようになった。 イギリスの文豪チャールズ・ディケンズの代表作『デイヴィッド・コパフィールド』のキャラクターからとった名前だった。 また単に「Telecaster No. 1」とも呼ばれることもある。
キースは読書家で知られるが、この「ミコーバー」をディケンズの小説から取ったことについては特に深い理由はないらしい。
「珍しい名前だからだ。私の周りにはミコーバーという人はいない。だから私がミコーバーといえば、何の話をしているか誰でも分かってくれるんだ」
キースはミコーバーをレコーディングでもステージ上でも演奏し続けた。
1981年『Tatoo You』のリリース後に行われたツアーで、キースの次のギターテックとなったアラン・ローガンがこのギターに手を加えた。
ローガンはピート・タウンゼントにシェクターのテレキャスタータイプを紹介したことがあり、当時テレキャスター用の安定したブリッジが普及し始めたことを知っていた。 ツアーのリハーサルをやっていたストーンズと合流したローガンは、ミコーバーにシェクターのブリッジと、スパーゼルのチューニングペグを取り付けた。
こうしてミコーバーの音はさらに安定し、チューニングもズレにくくなった。
キースの歴史を背負う
キースがこのミコーバーを「オープンGギター」として演奏し始めてからすでに40年以上になる。
ほかのギターでもそうだが、キースはフィンガーボードの近くでかき鳴らすことが多い。
そのためミコーバーもこの部分の損傷が激しい。 とくに17フレットのマーカーは取れてしまい、穴が開いたままになっている。
また5弦ギターとして使用しているため、ブリッジ部分のサドルも6弦のものはなく5つしか残されていない。
弦はアーニーボールの「キース・リチャーズ・カスタム・ストリングス」で、ニッケル製。 弦の太さは「.011, .015, .018, .030, .042」の5本である。
なお、出典とした下記リンクの記事では、この「ミコーバー」が1954年製テレキャスターだと書かれている。しかし通常「ミコーバー」と呼ばれているのは1952年製か53年製のテレキャスターであると言われている。
キースは54年製のテレキャスターも所有しており、こちらは「マルコム」または「Number 2」と呼ばれているもの。このテレキャスもまた5弦のオープンGチューニングで、ネックのピックアップがギブソンのPAFハムバッカーに取り替えられている。
このように仕様はミコーバーと共通だが、「マルコム」のほうが木目がハッキリと見えるというのがこの二つを見分ける分かりやすい特徴である。
出典:
A Blackguard Named Micawber: Keith Richards’ No. 1 | Reverb News