【エリック・クラプトン70歳】 1995年(50歳)のクラプトン
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エリック・クラプトンは50歳なった1995年の一年間を、ほとんどライヴ活動に費やしている。
これは前年にリリースされた『From the Cradle』を引っさげて行われたものであり、そのアルバムの内容に合わせ「NOTHING BUT THE BLUES TOUR」と呼ばれたワールド・ツアーであった。
【40代のエリック・クラプトン】
1980年代に入ってからアルバム・セールスは下降気味であったが、1989年(44歳)リリースの『Journeyman』からシングルカットされた「Bad Love」がグラミー賞を受賞し、同じくこのアルバムから「Old Love」「Before You Accuse Me」など、その後のクラプトンのライヴでも頻繁に取り上げられる代表曲が新たに生まれた。
しかし、このアルバムの後、クラプトンはライヴアルバムを2枚連続してリリースする。
さらにその後も、オリジナル曲中心のスタジオ・アルバムは、1998年(53歳)の『Pilgrim』まで待たなければならない。
これには1992年(47歳)のときにリリースされ大ヒットとなった『Unplugged』が理由のひとつのようである。
【原点回帰】
1994年(49歳)に行われた「A Conversation with Eric Clapton」というスタジオ・インタビューにおいて、同年にリリースされた『From the Cradle』についてクラプトンは次のように述べている。
ブルースは私がいつも戻ることのできる安全な場所だった。今回初めてこのアルバムでそれを明言するのだ。勇気のいることだが、今こそやるべきときなのだと思う。
インタビュアーに「何がきっかけでこのアルバム作りをしようと思ったのか?」と問われたクラプトンは、こう答えている。
『Unplugged』をやったことが大きく私を後押ししてくれた。私の年齢も理由だ。それから、自分の中でようやく安定したものができてきた。
『Unplugged』が成功し、私はとても驚いたと同時にうれしかった。この経験が、完全にではないにしても、ある程度まで私を解放してくれた。
『Unplugged』がみんなに受け入れられたという事実をもとに、一つチャレンジしてみようと思った。そして「これがブルースで育った本当の私だ」といえるものを作ろうと思ったのだ。
この作業にはとても勇気が必要だった、とも語っている。
ジョン・メイオール&ブルースブレイカーズと共演したときまでさかのぼるんだ。
最初はブルースバンドとして始めたヤードバーズが“ポップバンド”になってしまったので、そこからジョン(・メイオール)のバンドに移り、さらに私は、少なくとも私の頭の中では、もっと硬派なブルースバンドを目指してクリームの活動を始めた。
結局、クリームは異種混合の音楽をやるバンドになってしまったが。
今回の『From the Cradle』では、その最初のポイントに戻るものなのだ。まるで、たった今ジョン・メイオールのバンドを抜け出して、自分のブルースバンドを作っている、そんな感じだ。
そして、笑いながらこう続ける。
結局、30年間あっちこっち裏道をさまよって、ようやくここ(ジョン・メイオールのバンドを脱退した本当の動機)に戻ったということだよ(笑) こんなに時間がかかった理由は分からない。
私はいつも自分に正直でいることに不安を感じていた。たぶんそれは普通のことで、みんなそう感じるだろうから、私だけが特別ということではないだろう。
(自分のルーツであるブルースを)いつまでやり続けるかは分からない。 もしかすると今後ずっと続けるかもしれない。しかし私は全力でやるのだから、それでいいと思っている。
そしてインタビューの最後で、こう語っている。
ブルースは私の音楽的人格だ。私の原点であり、私が意図するものだ。この先どのようなことをやろうとも、すべてはブルースがその源だ。
【1995年のライヴ活動】
『From the Cradle』は1994年8月にリリースされ、いわゆる「NOTHING BUT THE BLUES TOUR」は10月から開始された。
いったん11月でブレークに入るものの、翌95年に入ってもツアーは精力的に続けられ、上記のとおり95年のほとんどがライヴに費やされた。
2~3月に本国イギリスをツアーでまわり、翌4月に始まったヨーロッパツアーは5月始めまで続いた。
ついで8月の終盤から全米ツアーが始まり、これが9月いっぱいまで続く。
この年も10月に来日し、10回の公演を行った。前回1993年以来2年ぶり、12回目の日本公演であった。
(http://udo.jp/Special/history/1995.html)
セットリストは全曲ブルースのカヴァー曲で占められており、文字通り「nothing but the blues」のライヴであった。
【『From the Cradle』というタイトルの由来】
このアルバムタイトルは、レコーディングセッションが続く中、クラプトンが書き記した詩から引用されたものである。
All along this path I tread
My heart betrays my weary head
With nothing but my soul to save
From the cradle to the grave
私が踏みしめてきた道すがらずっと
私の心は、疲れ果てた私の頭を裏切り続ける
揺りかごから墓場まで
私の魂の以外守るものは何もない
私生活ではさまざまな出来事に見舞われながらも、ギタリストそしてシンガーとしては、20歳のころから十分満足できる人生を歩んできたように見える。
しかしながら、執拗な“神様”扱い、周囲や大衆からの期待、メディアによる批評、レコード会社からの圧力などのせいで、常に「疲れ果てた私の頭」を抱えていたのだろう。
同時に、純粋にブルースを追い求めたいという「私の心」はそれを「裏切り続け」てきた。
そういう状態が、この30年間のクラプトンの本当の姿であった。
その意味で、本人がずっと心に描いていたブルース・ミュージシャンとしてのキャリアは、50歳のこの時期からようやく実現したのかも知れない。
出典:
https://www.youtube.com/watch?v=-M8R9tQp1wo
http://www.whereseric.com/the-vault/album-information-and-discography/album-titles-backstories
http://www.whereseric.com/eric-clapton-tour/archive/1995