半世紀を迎えた「ワイト島フェスティバル 1970」を追いかける

アメリカでは、モントレーポップフェスティバルやウッドストックフェスティバルが今日まで続く野外フェスのスタンダードを作ったといわれている。

 

一方イギリスでは、1970年のワイト島フェスティバルがそれにあたるかもしれない。

 

このフェスは8月26日から30日(実質は31日)までイギリスの南海岸沖で開催され、ジミ・ヘンドリックスザ・フー、ザ・ドアーズ、ジョニ・ミッチェル、シカゴ、ムーディー・ブルースなどが出演した。

 

ワイト島フェスティバルはすでに1968年から始められ、1970年は3回目だった。

 

前年の1969年にはボブ・ディランが出演。3年ぶりのライヴを行ったことで盛り上がりを見せていた。

 

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やむを得ず無料になった野外フェス

ウッドストックの場合と同様に、プロモーターはワイト島のためのチケットを前売りしていた。

 

しかしチケットを持たずに集まった人々は膨大な数に及び、彼らはフェンスを壊して観客席に入り込んでしまう。

 

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結果的に無料のフェスティバルにならざるを得なかった。

 

フェスティバルを無料にすることが決定すると、司会者のリッキー・ファーがフェンスを乗り越えて入り込んできた客たちに向かって「地獄へ落ちろ!」などと叫び出してしまうというハプニングまで起きた。

 

これはフェスの様子を収めたアルバム『Message to Love』でもはっきりと聞くことができ、今では語り草になっているようである(テン・イヤーズ・アフタークリス・クリストファーソンの間)。

 

後に推定された観客数は60万人。ウッドストックが記録した40万人の観客数を大幅に更新した。

 

また、事実上のロックフェスであったウッドストックとは異なり、ワイト島フェスティバルではジャズ(マイルス・デイヴィス)、カントリー(クリス・クリストファーソン)、ブラジルのトロピカル(ジルベルト・ジルとカエターノ・ヴェローゾ)など、多種多様なラインナップを誇っていた。

 

観客と出演アーティストとの小競り合い

こうしたフリーコンサートには珍しくない、「観客とミュージシャンとの対立」もこのフェスティバルで語り継がれていることである。

 

スライ&ザ・ファミリー・ストーンのフレディ・ストーンは缶ビールを投げつけられ、クリストファーソンはステージ外でブーイングを浴びた。

 

中でも最悪の経験をさせられたのは、まだキャリアの浅いジョニ・ミッチェルだった。

 

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https://www.theguardian.com/artanddesign/gallery/2020/aug/05/joni-mitchell-jimi-hendrix-isle-of-wight-festival-in-pictures

 

プログラムの進行が遅れていたため、彼女は早めにステージに上がるように言われた。

 

すると演奏の途中で、観客の一人が病気になり医者を呼ばなくてはいけなくなったため、ジョニはパフォーマンスを中断させられてしまう。

 

さらには、”ヨギ・ジョー” と名乗る男性が彼女のマイクを奪ってスピーチをしようとしたのである。

 

男性は取り押さえられ、ステージから強制退去させられた。

 

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しかし観客からのブーイングは止まない。

 

ジョニは再び演奏を中断し、ステージ上のミュージシャンたちをリスペクトするよう観客に訴えざるを得なかった。

 

彼女が傑作アルバム『Blue』で世界的な成功を収めるのは、その翌年だった。

 

 

 

各アーティストが「ワイト島ライヴ」をリリース

ジョニ・ミッチェルだけでなく、その前月にデビューアルバムをリリースしたばかりのスーパートランプ、前の週に初めてライヴを行ったばかりのエマーソン・レイク・アンド・パーマーなども、今となっては「将来の大物」だが、当時は無名の新人たちだった。

 

一方で、すでに名声を確立していたザ・フーは、おそらく彼らのキャリア上最高のライヴのひとつを残している。

 

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https://www.theguardian.com/artanddesign/gallery/2020/aug/05/joni-mitchell-jimi-hendrix-isle-of-wight-festival-in-pictures

 

またジミ・ヘンドリックスのライヴはフェスティバル最終日に行われ、これは彼がイギリスで行った最後のライヴとなった。

 

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https://www.theguardian.com/artanddesign/gallery/2020/aug/05/joni-mitchell-jimi-hendrix-isle-of-wight-festival-in-pictures

 

ジミはこの3週間後に亡くなっている。

 

このフェスティバルはマレー・ラーナー監督によって撮影され、そのハイライトが1996年に映画『Message to Love』として公開された。

 

その後もジミ・ヘンドリックスザ・フージェスロ・タルマイルス・デイヴィス、ザ・ドアーズ、レナード・コーエンエマーソン・レイク・アンド・パーマームーディー・ブルース、フリーなどが、このフェスティバルでのライヴをCDやビデオでリリースしてきた。

 

2002年に復活(2020年は中止)

しかし、ワイト島のような小さな場所で数十万を超える人を収容する野外フェスは、様々な困難が引き起こされることが懸念された。

 

イギリス議会は、特別なライセンスを得ない限りワイト島内で5,000人以上の集会を禁止する法律を可決する。

 

3年続いたワイト島フェスティバルが1970年でいったん終了したのは、この法律のせいで開催が難しくなったのが原因だという説がある。

 

一方、結果的にフリーコンサートになってしまったため財政的に破綻したことが原因だという人もいる。

 

その後30年以上、ワイト島フェスティバルは行われなかった。

 

しかし2002年、ロバート・プラントをヘッドライナーに迎えて復活する。

 

それ以来毎年開催され、ザ・ローリング・ストーンズポール・マッカートニーなどもヘッドライナーを務める一大イベントとして定着した。

 

そして2020年は1970年の歴史的フェスティバル50周年を祝う特別イベントになる予定だったが、パンデミックの影響で、2002年に復活して以来初めての開催中止となった。

 

 

 

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