ビートルズのルーフトップ・コンサート 現場に駆けつけた警察は4人を逮捕しようとしたのか?

 

ザ・ビートルズは1968年夏、このサヴィル・ロウにあるビルを購入し、その地下にスタジオを設置した。のちにリンゴ・スターの『Ringo』やジョージ・ハリスンの『Living In The Material World』などがこのスタジオでレコーディングされることになる。

 

映画『Let It Be』をライヴパフォーマンスで終わらせるというアイデアは、しばらく前から温められてきたものだった。アップルの代表を務めていたニール・アスピノールは「コンサートを船の上でやるか、ギリシャの円形劇場でやるか、それともロンドンのラウンドハウス(※)でやるか、彼らは話し合いを続けていた」と語っている。実際のライヴが行われる4日前の1月26日に、ビルの屋上でライヴをやって映画を終わらせることが決まった。

※「Roundhouse」はロンドンのカムデン地区にあるライヴハウス

 

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【2年半ぶりのライヴ】

ライヴそのものは1月30日の正午ごろに始まった。とても寒い木曜日の昼であった。その後42分間にわたるライヴのうち、約半分が映画『Let It Be』の最後に使われることになる。

 

監督のマイケル・リンゼイ=ホッグとその撮影クルーたちはビートルズが現れる前に屋上で撮影準備を始めていたが、そのあいだもポール・マッカートニーだけはそこに設置された “ステージ” をチェックしに何度か顔を出していた。音源の録音のために8トラックの録音機器が地下のスタジオに2台設置され、屋上のステージには数台のカメラが用意された。その中には演奏中のビートルズの撮影だけでなく、近隣のビルの窓やサヴィル・ロウの路上から見上げる通行人たちを撮影するカメラも含まれている。

 

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ビートルズが1966年8月29日にサンフランシスコのキャンドルスティック・パークで最後のライヴをやって以来、2年5か月が経過していた。このルーフトップ・コンサートでは、バンドメンバーの立ち位置も若干変わった。ジョン・レノンとジョージが場所を交代して、ジョンが真ん中、ジョージが彼の左側に立って演奏し、ビリー・プレストンはポールの後ろ、リンゴのドラムの横でハモンドB3を演奏している。

 

プレストンはこのときレイ・チャールズのバックバンドのメンバーとしてロンドンに来ており、そのままLet It Beセッションに合流した。ジョージ・マーティンに言わせると、当時のメンバー間の緊張を和らげる役割を果たしていたという。

 

現場でビートルズたちを取り巻いているのは上記の撮影クルーたちに加え、ビートルズのロードマネージャーであったマル・エヴァンスもいた。一方ジョージ・マーティンは「近所迷惑の行為でサヴィル・ロウ警察署にぶち込まれるのを恐れていた」ために地下のスタジオに残っており、ニール・アスピノールは「扁桃腺摘出手術のために病院にいた」ため、やはりコンサートの現場にはいなかった。

 

ライヴは「Get Back」のリハーサルで始まる。6日前の24日にすでにスタジオヴァージョンのレコーディングは終えていた。リハーサルのあと、あらためて「Get Back」が通しで演奏される。アルバム『Let It Be』に使われたのはこの二つの演奏を編集したものだった。

 

「Don’t Let Me Down」も二度演奏された。1回目の演奏が映画の中に含まれ、両方の演奏を編集したものが2003年のアルバム『Let It Be... Naked』に収録されてリリースされている。

 

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【警察とはどんなやり取りがあったのか?】

10曲ほど演奏したあたりで、すでにサヴィル・ロウの路上には人だかりができていた。ビートルズによるフリーコンサートであり、今となっては彼らの最後のライヴパフォーマンスを、多くの人たちが楽しんでいた。

 

一方で、アップル・コア社屋の隣で羊毛商を営んでいたスタンリー・デイヴィスさんは「このひどい騒音を止めてくれないか。まったくもって汚らわしい」と苦情を言ったといわれている。

 

人だかりのせいでサヴィル・ロウは交通が出来なくなり、同じ通りにあるウェストエンド・セントラル警察署から警察官が駆け付けた。警察到着の様子は、マル・エヴァンスがアップル・コアの受付に設置した隠しカメラで撮影されている。

 

「Get Back」の三度目の演奏のときに、警察が屋上に現れた。ジョンとジョージのアンプがオフにされたり、曲の最後でポールが「また屋上で演奏しているからお母さんが怒って逮捕させようとしているぞ」としゃべったりするのはこの三度目の演奏である。この様子は『Anthology 3』に収録されている。

 

BBCのサイト「BBC - 6 Music - Beatles rooftop birthday」によると、当時この現場に駆けつけた警官の一人はこう語っている:

 

堅物の巡査部長が電話をしてきましてね。「あの騒音が聞こえるか、若造?」と聞くもんだから「はい、ビートルズのように聞こえますが」と答えました。そのときは彼らが屋上にいるとは知りませんでしたが、彼らのスタジオがサヴィル・ロウにあることはみんなが知っていたんです。

 

巡査部長には「そこいらにいる同僚を集めて音量を下げるよう行ってこい」と言われました。 しかし私たちは、彼らにはライヴを続けていいと言ったんです。

 

後で思ったんですが、しかしたら映画のためにはジョン、ポール、ジョージ、リンゴを捕まえて行列にしてサヴィル・ロウを歩かせたほうが面白かったかもしれません。

 

古い映像を見ると、ハットをかぶってパイプをくゆらせている人たちが集まっていたのが分かりますが、そこはむしろパーティのような雰囲気だったんです。

 

正直に言うと、もし屋上でコンサートをすると分かっていたら、どんな警察官でもやらせなかったと思いますよ。

 

リンゴは『Anthology』の中で、ルーフトップ・コンサートについてこう言っている。

いつも警察のことを考えるとがっかりしてしまうんだ。彼らが現れたとき、私は演奏しながら「ああ、これはすごい!俺を引きずって行ってくれ」と思ったよ。カメラが回っていたから、もしシンバルを蹴飛ばしたりなんかしたらすごく面白かったかも知れない。もちろん警察はそんなことはしなくて、ただ「音を小さくしなさい」って言っただけだった。いいものになったかもしれないのにね。

 

しかし2019年1月30日、リンゴは自身のツイッターで50年前のビートルズとしての最後のライヴを懐かしんでいるように見える。 

 

 

 

(出典)

20 Things You Need To Know About The Beatles’ Rooftop Concert — Mojo

BBC - 6 Music - Beatles rooftop birthday