ザ・ビートルズ 『1』 リイシュー盤の全貌
日本でも2015年11月6日にリイシューされたザ・ビートルズの公式ベストアルバム『1』は、世界各国でも注目を集めている。
アメリカの経済紙として名高い「ウォールストリート・ジャーナル」も今回のリイシュー盤を取り上げており、その注目の高さが伺える。
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【2000年からの10年間で全米最多売上】
2000年11月、ビートルズのアップルレーベルが最初に『1』をリリースしたとき、このバンドの熱心なファンたちはあまり興味を示さなかった。
ファンたちの多くは、映画『Let It Be』や1965年のシェイ・スタジアムでのライヴ映像のDVDリリースを期待していたのである。
彼らにとっては、チャートで1位を記録した27曲のコンピレーション・アルバムは、単に従来と同じベストアルバムの最新企画に過ぎず、目新しさのない商品の典型に見えたのだ。
しかしこのベストアルバムは3,000万枚を売上げ、アメリカでは2000年~2009年の10年間での売上枚数の最多記録を誇るアルバムとなった。
そして2015年2月時点ですら、毎週1,000枚のスピードで売れ続けていたのである。
【リイシュー盤ならではの映像特典】
15年前にこのアルバムを手に入れた人も、今回のリイシュー盤を買いたいと思うだろう。
最新盤『1』は、熱心なファンの間では1995年の『The Beatles Anthology』以来、アップルの行う最も重要なプロジェクトとされているのである。
オリジナルの27曲が収録されたCDに加え、その27曲のライヴ映像、TVでの演奏シーン、コンサート映像などを収録したDVD/Blu-rayが付いてくる。
ザ・ビートルズ 1(初回限定スペシャル・プライス盤)(CD+Blu-ray)
一部は、シングル・リリース宣伝のためにテレビ出演をしなくなったビートルズが製作したプロモーション・ビデオも含まれている。
また『ザ・ビートルズ 1+ ~デラックス・エディション~ 』には、もう一枚DVD/Blu-rayが追加されており、通常盤とは別バージョンのビデオクリップや、『1』に収録されていない曲の映像も見ることができる。
この『1+ デラックス・エディション』にはブックレットも入っており、各曲の詳細な注釈を読むこともできる。
ザ・ビートルズ 1+ ~デラックス・エディション~(完全生産限定盤)(CD+2Blu-ray)
過去何年にもわたってコレクターたちが海賊盤で入手してきたビートルズのビデオは多くあるが、今回発表されたものほど鮮明なものはなかった。
アップルはオリジナルビデオの復旧に力を注いできた。
汚れをとり、傷を修復し、色を補修し、中にはフィルムのネガからあらためて起こした映像もあるのである。
初期の頃でも、ビートルズはおもしろいことを見せてくれていたことが分かる。
1965年の「I Feel Fine」のビデオクリップではジムの機材に乗っかって歌っており、「Help!」のビデオでは4人が脚立にまたがり、リンゴが傘を差して紙ふぶきの雪をよけ、ほかの3人が楽器を弾きながら歌っているのである。
また「Penny Lane」「Strawberry Fields Forever」で見せたシュールレアリズム、サージェント・ペパーの衣装を着て奇妙な口パクでパフォーマンスする「Hello Goodbye」、オーケストラのセッション映像をつぎはぎして作られたトリップ感満載の「A Day in the Life」なども興味深い。
【最新リミックスによる今までにないビートルズサウンド】
しかしビデオは注目すべきことの一部に過ぎない。
ジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンとサム・オケルが音楽をリミックスした。
ビデオには5.1chサラウンド対応の音が、CDにはステレオミックスが採用されている。
新しいミックスは耳に新鮮であり、特にサラウンドミックスは「A Day in the Life」や「Strawberry Fields Forever」などを今まで聴いたことのない音で聞かせてくれるのである。
(ジョージ・マーティンとジャイルズ・マーティン親子)
ビートルズファンの中には1960年代のヴァージョンこそ不変の音であると考えている人がいるため、このリミックスは議論を呼ぶかもしれない。
しかし1960年代の音は、当時の技術を用いて可能な限り最善を尽くした結果に過ぎない、とも言えるのである。
【1960年代当時のレコーディングは?】
この当時の技術的限界を知っておくことは意味がある。
ビートルズはEMIのアビーロード・スタジオで、ほとんどの曲を4トラックの機材でレコーディングしていた。
そして彼らがスタジオをまるで絵画のキャンバスのように使い始めてから、4トラックでは足りなくなった。
そこで考え出されたのは、ミックスを「減らす」ことだった。
ミックス途中の未完成を別の4トラックテープにコピーし、さらにトラックを追加して音を重ねていったのである。
しかしこの作業にはマイナス面もあった。
テープをコピーしてしまうと、たとえプロのスタジオのクオリティーであったとしても、やはり音質を鈍くし、摩擦音を発生させてしまう。
完成した段階では、コピーされた音をベースにしたレコーディングとなってしまうのである。
【デジタル・マスター音源からのリミックス・ステレオ】
1990年代に入り、EMIはビートルズのオリジナル・マスターテープをすべてデジタル化した。
ここでは4トラックテープにコピーされる前のオリジナルを含めて、デジタル化が行われている。
こうして、マルチトラックのマスター音源が出来上がったのである。
今回のリミックスは、テープのダビングによる音質の劣化もなく、よりバランスの取れた音が出来上がっているのだ。
ジャイルズ・マーティンとオケル氏による原型を尊重したリミックスは、声や楽器の配置をオリジナルどおりに再現している。
しかしビートルズや自分の父親が今まで満足できなかったステレオミックスについては、いくつかの手直しもしている。
1960年代に行われたステレオミックスではヴォーカルが一方の側のみに寄せられていたが、今回のミックスでは中央から聞こえるように直された。
かつて活力に欠けるように聞こえた「Paperback Writer」も、パワフルなモノラルに負けない音になっている。
また「Eleanor Rigby」でポールのヴォーカルが左右で一瞬混ざってしまう状態や、「Yellow Submarine」で抜けてしまっているヴォーカル部分などの修正も行われた。
しかし、全体的には気着心地のよさが大きな進歩といえる。
ベースとドラムは前面に押し出され、また「Get Back」のギター、「Penny Lane」のスタッカートの効いたキーボードと木管楽器、「All You Need Is Love」のハープシコードやストリングス、金管楽器なども、よりはっきりと聴くことができる。
1960年代どおりであることを尊重する人たちにとっては、このリミックスは気に入らないかもしれない。
しかしオリジナル感は十分楽しむことができるのだ。
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なお、CDなしで映像のみのDVD/Blu-rayも発売されている。