ビートルズ 『Help!』 50周年 “4人はアイドル”からアーティストへの発展

 

1965年7月、ザ・ビートルズ2本目の主演映画『Help!』が公開された。続いて翌8月、5枚目のアルバム『Help!』がリリースされる。

 

f:id:musique2013:20150802015219j:plain

 

 『Help!』が公開された当時、前作『A Hard Day's Night』に比べると「内容がくだらない」「はしゃぎすぎ」などという厳しい声も寄せられたらしい。

 

事実、『A Hard Day's Night』はロンドンを舞台に繰り広げられるビートルズ自身の日常をベースにした設定であった。

 

f:id:musique2013:20150802024424j:plain

 

しかし『Help!』では舞台がロンドンからオーストリアアルプス、さらにはバハマまで広がり、設定もリンゴの指輪のせいで架空の国の国王に追われるという、まったくの「作り話」になっていた。

 

等身大の4人を楽しむことができた『A Hard Day's Night』に比べて、実在するバンドが本人役で登場する映画としては、『Help!』の設定は少し無理があったのかもしれない。

 

f:id:musique2013:20150802021004j:plain

 

しかしこのような反応を示したのは批評家たちだけであり、世界中のビートルズファンには大喝采で迎えられた。

 

 
【映画俳優 リンゴ・スター
『A Hard Day's Night』も『Help!』もキャストを見るとジョン、ポール、ジョージ、リンゴの順で名前が記されており、ビートルズ4人がまとめて主役であることになっている。

 

しかし2本とも、ストーリーの展開の中心にいるのはリンゴである。

 

f:id:musique2013:20150802021622j:plain

 

ポールのおじさんにそそのかされて勝手に外出してしまうリンゴを巡り騒動が起こる『A Hard Day's Night』。


リンゴがはめている指輪を巡って、国境を越えた騒動が起こる『Help!』。

 

ともにリンゴが事実上の「主役」となっている。

 

f:id:musique2013:20150802025019j:plain

 

監督のリチャード・レスターによると、カメラの前に立った時に最も自然に演技ができたのがリンゴだったという。

 

またリンゴもこれをきっかけに演技に目覚めたようで、この後、音楽活動とは別に俳優業をコンスタントに行うことになる。

 

ちなみにアルバム『Help!』でリンゴがリードヴォーカルを担当している「Act Naturally」は、映画スターを目指す男の歌である。

 


【メロディ・メーカー ポール・マッカートニー
アルバム『Help!』について最もよく語られるのは、ポール・マッカートニーの「Yesterday」により、ビートルズの新たな魅力が確立されたことである。

 

今では考えられないことだが、その当時の保守的な大人たちはビートルズを「うるさい騒音」だとバカにしていた。

 

ビートルズなどは一時的な流行にすぎず、数年たてば忘れられ誰も聴いていないだろう、と言われていたのである。

 

しかしこの「Yesterday」により、ビートルズには美しいメロディーを創り出すことができる作曲家がいることが証明された。

 

f:id:musique2013:20150802023655j:plain

 

またポールはカントリーミュージック調の「I've Just Seen a Face」もつくっており、単なるロックバンドのベーシスト兼ヴォーカリストの枠を超え、アコースティックギターによる作品もつくれることも証明した。

 


【作曲家 ジョージ・ハリスン
ジョージ・ハリスンは「I Need You」と「You Like Me Too Much」という2曲のオリジナル作品を残している。

 

つねにレコードのA面・B面それぞれで1曲ずつリード・ヴォーカルをとる歌を与えられてきたジョージであるが、その両方がオリジナル曲となるのは、この『Help!』からである。

 

f:id:musique2013:20150802023325j:plain

 

2枚目のアルバム『With the Beatles』に収録された「Don't Bother Me」以来のオリジナル曲であり、ジョンやポール、プロデューサのジョージ・マーティンらがジョージ・ハリスンの作曲能力を認めた証拠であろう。

 


【内省的詩人 ジョン・レノン
「I love you」という歌ばかりが流行していた時代に「She loves you」と歌うことは画期的であったと言われている。

 

しかしその2年後、ジョン・レノンは自らの内面をさらけ出し、自分を見失ってしまいそうな精神状態をあらわにし、人に助けを求める歌を歌ったのである。

 

タイトルソング「Help!」もともとはジョンがスローテンポな歌として仕上げたものを、映画の主題歌にするためにアップビートのポップな曲に変えられたと言われている。

 

f:id:musique2013:20150802024121j:plain

 


【アイドルからアーティストへ】
次の『Rubber Soul』では、ポールは「Michelle」でメロディーメーカーとしての才能が単なるまぐれではなかったことを証明し、ジョージは「If I Needed Someone」でさらにその作曲能力を発展させ、ジョンは「In My Life」でその内省的な言葉の世界をより深めていった。

 

つまり『Help!』で見せた音楽的展開は一時だけの特徴ではなく、この後もどんどん発展をつづけ、ビートルズ後期のサウンドを特徴づけてゆくのである。

 

そういう意味で、『Help!』はビートルズがアイドルからアーティストへ脱皮したきっかけだったと見ることができるだろう。

 

f:id:musique2013:20150802021833j:plain

 

ビートルズ写真集 ~映画『HELP! 』の撮影現場から~