ジェフ・ベックが使用した「ジャクソン・ギター」とは?
今から30年前の1985年7月、ジェフ・ベックはアルバム『Flash』をリリースした。
前作『There and Back』(1980年)以来5年ぶり、ソロ名義で活動を始めてから通算4枚目のアルバムとなる。
ジェフ・ベック自身はこのアルバムを「レコード会社がやらかしたへま」と呼び捨てており、いわゆる「チャートでヒットするアルバム」を目指したことを後悔しているようなコメントも残している。
その一方、ロッド・スチュワートとの共演が話題となった「People Get Ready」がシングルヒットしたり、「Escape」がグラミー賞を受賞するなど、商業的には決して失敗作だったわけではなかった。
【当時最新のギターを使用】
この「People Get Ready」でジェフ・ベックが弾いているのは、いつものフェンダー・ストラトキャスターではない。またこの曲のプロモーションビデオで登場するテレキャスターでもない。
「ジャクソン・ソロイスト」と呼ばれるギターを演奏している。
ジャクソン・ソロイストは「ジャクソン・ギター社」の製造するエレキ・ギターで、1980年代初頭から開発が始められており、1984年から一般に発売された。
つまりこのギターがまだ市場に出回り始めたころに『Flash』はレコーディングされていたのである。
このギターはいわゆる「スーパーストラトキャスター」と呼ばれるギターの一種とされる。
ネックの木材がそのままボディの下まで続いて使われている「スルーネック」の構造が用いられ、ビブラートユニットは「フロイド・ローズ」が使用されている。またボディは最高品質の木材を使用しており、値段も比較的高価である。
後のインタビューでジェフ・ベックはこう述べている。
あのギターの見た目が気に入ったんだ!
でも私には合わなかった…
あれは妖精の弾くギターだよ、まったく!
音が柔らかすぎてふわふわしているし、強くコードを弾くとブリッジのところに振動を感じたほどだ。
強く弾くと音があちらこちらに散らばってしまう感じだったんだ。
ネックも長すぎたしね。
でもセッションの間ずっと弾き続けて、何とか音を出すことができるようになった。
また、このアルバムの1曲目である「Ambitious」でもジャクソン・ソロイストを弾いている。
「Ambitious」のソロもジャクソンで弾いた。
あのソロは他のどのギターでも再現できない。
ジャクソン・ソロイストにはそういう注目に値する部分もあるんだ。
【ジェフ・ベック使用ジャクソン・ギター① ピンク・ソロイスト「Tina」】
ジェフ・ベックは少なくとも2種類のジャクソン・ソロイストを所有していたとみられている。
ひとつは通称「Tina」というピンクのソロイストである。
このギターはその後一般に流通するフロイド・ローズではなく、「ケーラー・ブリッジ」が搭載されていた。
「Tina」という通称は、ティナ・ターナーがこのギターのボディに自分の名前を彫り込んだために付けられたものである。
(こちらの写真でも不明瞭だが確認することができる。)
1984年にリリースされたティナ・ターナーのアルバム『Private Dancer』のタイトル曲にジェフ・ベックは参加し、このピンクのジャクソン・ソロイストを演奏している。
【ジェフ・ベック使用ジャクソン・ギター② オレンジ・ソロイスト】
「Tina」ギターにあまり満足できなかったジェフ・ベックは、同じジャクソン・ソロイストのオレンジボディを弾き始めた。
白のピックガードがついており、こちらはフロイド・ローズが搭載されていたため、ケーラー・ブリッジよりはジェフ・ベックの好みに近い音であったらしい。
またこのデザインはフェンダー・テレキャスター・ベースにインスパイアされたものと言われている。
【その後のジェフ・ベックとジャクソン・ギター】
『Flash』の後は、今日に至るまでジェフ・ベックとジャクソン・ソロイストの組み合わせを目にすることはない。
ジャクソン・ソロイストは特にハードロックやヘヴィ―メタルのギタリストたちに愛用され続け、今日でも人気のギターである。
一方ジェフ・ベックは、その後3年間アルバムをリリースしていない。
その間、彼は何をやっていたのか?それは新しい演奏方法の習得であった。
4年後の1989年にリリースされた『Jeff Beck's Guitar Shop』では、ストラトキャスターのアームでメロディを奏でるという、文字通り「神業」を聴かせてくれるのである。
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