ザ・フー「Pinball Wizard」 クラシック音楽に触発されギブソンJ-200で演奏されたロックの名曲を追いかける
1968年の暮れ(または翌69年の始め)ごろ、ザ・フーはまだラフミックの状態だった『Tommy』を音楽評論家のニック・コーンに聴かせた。
しかしコーンはあまりいい反応を示さなかった。
ピート・タウンゼントはコーンと話し合う中で、このロックオペラは主人公の精神面の描写が中心に据えられているため、もう少し聴きやすくする必要があるだろうと考えた。
実はこのラフミックスの段階では、まだトミーがピンボールのチャンピオンだという設定にはなっていなかったのである。
しかしコーンがピンボール好きだったことを知っていたピートが、トミーをピンボールの名人という設定にすることを思い付き、その後すぐに「Pinball Wizard」を書き上げてレコーディング、それがこのアルバムに追加されることになった。
ピートはこう語っている:
イントロのコード構成は(バロック時代のイギリスの作曲家)ヘンリー・パーセルからインスピレーションを得たものだった。パーセルは「Symphony Upon One Note」(※)というとても短い曲を作った人だ。
※おそらく「Fantasia Upon One Note」が正しい。
ちょうど(20世紀のアメリカの作曲家)サミュエル・バーバーの書いた「Adagio for Strings」のような感じの曲だ。その1曲の全体を一つの音がずっと流れ続けているんだ。
私は「Pinball Wizard」を書いている最中にこの刺激的な音楽に出会った。そしてその曲のすべてのコードを細かく分析して、それをギターで再現する方法を見つけ出したんだ。
ヘンリー・パーセル作曲「Fantasia Upon One Note」
【ギブソンJ-200】
こうして書かれた「Pinball Wizard」は1969年3月7日にシングルリリースされた。
上記のパーセルの曲からインスパイアされたイントロは、ピートがアコースティックギターで演奏されている。
このアコースティックギターが1968年製ギブソン「J-200」であることは、ファンの間ではよく知られていることだ。
ピートはこのギターを前年の1968年にニューヨークにある「マニーズ・ミュージック」という老舗楽器店で購入した。
このときすでにピートは『Tommy』の楽曲づくりを進めていた最中であった。
ステージ上ではエレキギターを壊しまくってきたピートだが、このギターは長期間にわたって愛用した。
購入した1968年から1989年(ソロアルバム『Iron Man』のころ)にかけてこのギターをずっと使用していたと言われている。
1979年に Fylde Arielの小型ボディのギターを購入すると、ツアーなどの移動の際にはこちらが使われるようになったが、それまではまではどこに行くときもギブソンJ-200を一緒に運ばせていた。
1968年に購入したこのJ-200は1989年に壊れて使えなくなった。
ステージでのパフォーマンスで壊したのではない。
『Iron Man』に収録される曲作りの最中はふつうに使えたが、レコーディングを始めようとしたときにJ-200の本体がバラバラになってしまったらしい。
そのため『Iron Man』のレコーディングではタカミネなどその他のアコースティックギターをスタジオで使っていた。
壊れたJ-200はその後修復され、1993年には米オハイオ州クリーヴランドにあるロックンロール・ホール・オブ・フェイムに寄贈されている。
2004年2月、ギブソンは「ピート・タウンゼントSJ-200限定モデル」を発表。名実ともにピート・タウンゼントを代表するギターとして記憶されるようになった。
・The Who's Pete Townshend Shares the Story Behind "Pinball Wizard" | Guitarworld
・1968 Gibson J-200 | Pete Townshend’s Guitar Gear | Whotabs