ウィングス『ヴィーナス・アンド・マース』と幻の1975年日本公演

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http://www.rollingstone.com/music/albumreviews/venus-mars-20010503 

 

1975年5月27日、ウィングスは『Venus and Mars』をリリースした。

ウィングスとしては4枚目、ポール・マッカートニーによるビートルズ後のアルバムとしては6枚目のスタジオアルバムとなる。

 

【『Band on the Run』の大成功】

前作『Band on the Run』は1973年12月にリリースされた。

 

1974年1月に入ってからシングルカットされた「Jet」は、全米・全英チャートともに7位を記録。

続いてシングルカットされたアルバムのタイトルソング「Band on the Run」も大ヒットとなり、全米1位・全英3位を記録した。

 

この二枚のシングルのおかげでアルバムもNo.1ヒットとなり、1974年のグラミー賞「アルバム・オブ・ザ・イヤー」にノミネートされた(受賞は逃した)。

 

今でこそ「ビートルズ分裂後も常に第一線で活躍してきた」と言われるポールであるが、『Band on the Run』で大成功を収めるまでは、最も成功した元ビートルズのメンバーはジョージ・ハリスンである、というのが世間での定評となっていた。

 

それまでも『Ram』や『Red Rose Speedway』などクオリティの高いアルバムをリリースしてきたが、ビートルズの音楽を引っ張ってきたポールに対する世間の期待はとても大きかった。

 

その一方、才能が未知数であった「静かなビートル」は『All Things Must Pass』という歴史的名盤ひとつで、世間の期待をはるかに上回る実績を残していたのである。

 

【翌年も続くサクセスストーリー】

1974年の大ヒットにより、自分の才能と実力をようやく再認識させることに成功したポールは、ウィングスに新しいメンバーを加入させ、後に『Venus and Mars』に収録される曲の数々を74年11月にロンドンで、翌75年1~2月にルイジアナでレコーディンした。

 

一説によると、この時期オノ・ヨーコと別居していたジョン・レノンは、ポールのもとを訪れ一緒に曲作りをすることを希望していたという。

しかしこれはジョンとヨーコが復縁したため、実現しなかった。

 

アルバム先行シングルとして「Listen to What the Man Said」が5月16日にリリースされ、アメリカとカナダで1位、イギリスで6位の大ヒットとなった。

 

 

 

またアルバムは5月27日にリリースされ、アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ニュージーランドノルウェー、スペイン各国でNo.1を記録する大ヒットとなった。

(注:日本のオリコンチャートでは9位。)

 

【幻の ウィングス・オーヴァー・ジャパン・ツアー】

『Venus and Mars』リリース後、ウィングスは初のワールドツアーを行った。

 

本国イギリスを皮切りに、オーストラリア、ヨーロッパ、北米と回り、再びヨーロッパへ戻り、最後はロンドンのウェンブリーアリーナで締めくくる、大規模ツアーであった。

 

期間は1975年9月から1976年10月までの1年超、公演数も66回に及んだ。

 

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 http://www.circlecinema.com/archive/paul-mccartney-and-wings-rockshow-1970

 

イギリス公演の後の1975年11月、ウィングス一行はオーストラリアに飛び、1~14日までオーストラリア各所で全9回の公演を行った。

 

このオーストラリア公演の後、日本へ立ち寄り、19~21日の3日間にわたり日本武道館でライヴを行う予定があったのである。

 

すでに一連のワールドツアーが発表されたときから、ウィングスが日本に来るのではないかという噂が広まっていた。

 

そして10月、ウィングス来日の正式発表が行われた。ポールにとっては、1966年のビートルズ来日以来9年ぶりの日本公演となるはずであった。

 

しかしウィングスがオーストラリアを回っていた11月になって、日本の法務省はポールに麻薬所持の前科があることに目をつけ、ビザの発給を拒否した。

 

結局チケットの発売などが行われる前に、来日そのものの中止が発表された。

 

これはその時にポールが日本のファン向けに録画したお詫びコメントである。

 

 

「日本の皆さん、こんにちは。ウィングスポール・マッカートニーです。今回日本でライブ演奏ができなくてとても残念です。裁判所が僕たちは入国できないって言うので、来日できないことになってしまった。だから、また次回会いましょう。でも心配しないで。あなたたちの美しい国に次回行くときに、会えるでしょう。サヨナラ」 

 

この来日中止決定の後、ビートルズファン230人が銀座をデモ行進し、あらためてポールの来日許可を訴えた、というニュースも残っている。 

 

この40年前の「ウィングス武道館公演中止」をリアルタイムで経験した方にとっても、先日のポール・マッカートニー武道館公演は感慨深いものであったに違いない。

 

(1975年のウィングス来日中止については、「CROSSBEAT Special Edition ポール・マッカートニー (シンコー・ミュージックMOOK) 」を参照した。)

 

 

Venus And Mars (Remastered 2014)