デヴィッド・ギルモアの「ブラック・ストラト」をめぐる長く興味深い歴史を追いかける

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2019年1月、デヴィッド・ギルモアのギター120本以上がオークションにかけられることがニュースになったとき、彼のトレードマークである「ブラック・ストラト」もカタログに含まれていることがとくに話題になっていた。

 

このブラック・ストラトは15年間メインギターとして演奏され続けた後いったん引退し、その後再び復活してからまた10年間にわたって演奏され続けた、という珍しい歴史がある。

 

 

 

1970年に始まる歴史

ギルモアはこのギターを1970年、ニューヨーク・マンハッタンのタイムズスクエア近くにある楽器店「マニーズ・ミュージック」で購入している。

 

それまでも似たようなタイプのギターを弾いており、こちらは21歳の誕生日に両親からプレゼントされたものだったが、ピンク・フロイドの1968年アメリカツアーの最中に紛失してしまった。

 

新しく購入したストラトキャスターはもともとの色はサンバーストだったが、楽器店で黒に塗り直されたものだった。

 

それ以来、15年間にわたってレコーディングでもライヴでもメインギターとして演奏され続けてきた。

 

ライヴで初めて演奏されたのは1970年6月に開催された「バース・フェスティヴァル」でのステージだった。 レコーディングでは「Comfortably Numb」「Money」「Shine On You Crazy Diamond」など、代表的な曲で使われてきた。

 

1986年、ギルモアはEMGピックアップを搭載したキャンディ・アップル・レッドのストラトキャスターを3本手に入れた。 ロジャー・ウォーターズ脱退後のピンク・フロイドでは、このギターがメインギターとなる。

 

またクリーム色のストラトキャスターも入手し、こちらをリハーサル用に使っていた。

 

こうしてブラック・ストラトは「引退」し、その後ダラスにあるハードロック・カフェで10年間展示されている。

 

1990年半ばにギルモアの手元に戻ってきたが、ハードロック・カフェで展示されているときにガラスケースに覆われていなかったため、ギターパーツの一部が盗難されるなどかなりの損害を受けている。

 

しかし2005年にロンドンのハイド・パーク行われた「Live 8」でピンク・フロイドが再結成したとき、ギルモアはこのギターを演奏した。

 

さらにその後もこのギターがメインギターとして復活するようになり、2014年にリリースされたピンク・フロイド最後のアルバム『The Endless River』や2015年から16年にかけて行われたギルモアのソロツアーまで、約10年間にわたってこのギターが演奏され続けた。

 

 

 

原形をとどめない多数の改造

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このギターのネックは6度にわたって取り替えられており、メープルとローズウッドとが交互に使われてきた。

 

1972年、ギルモアはDallas Arbiter の「Fuzz Face」を使用していたが、そのハムのノイズを消すためにXLRコネクターを設置した。しかしこれは、すぐに取り外された。 またオリジナルのチューナーをKlusonのチューナーに交換している。

 

1973年には、ブリッジとミドルのピックアップとの間にギブソンのPAFハムバッカーを取り付け、さらにもともと付いていたシングルコイル・ピックアップを取り外し、その上を黒のピックガードで覆っている。

 

1976年、ブリッジのピックアップをディマジオの「FS-1」に取り替え、その後さらにセイモアダンカンの「SSL-1」に取り替えられた。

 

1980年代になってからはブリッジをKahlerのトレモロ・システムに取り替えたが、その後取り外され以前のブリッジを再び取り付けた。 Kahlerブリッジはサイズが大きいため、取り付ける際にボディの一部を削り取らなくてはいけなかった。 そのためいったん装着したKahlerを取り外して以前のブリッジに戻したときには、木片で隙間を埋めて黒のスプレーで色を付けなくてはいけなかったという。

 

トレモロアームも、購入時のアームよりも短いものに交換されている。

 

このように相当な改造が施されているため、購入当時のパーツで残っているのは(ボディをのぞくと)ピックアップ・セレクターとブリッジプレートだけだと言われている。

 

推定10万~15万ドル

今回予定されているオークションでは、このブラック・ストラトは推定100,000~150,000ドルの値が付くと予想されている。

(ちなみに今までの最高値は、ジョン・レノンが「Love Me Do」で演奏し、その後ずっと行方不明だったギブソンJ-160Eで、2,400,000ドルの値が付いた。)

 

ギルモアはこう語っている:

ギターは演奏されるために作られている。ギターたちがどこへ行ったとしても、そのオーナーたちに音楽の贈り物を与えてくれることを私は願っているんだ。

 

オークションは6月14~19日に、ニューヨークで行われる。

 

 

 

www.theguardian.com