ポール・マッカートニーを支える4人のバンドメンバーが語る「ポールとの共演」

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ポール・マッカートニーが今でも間違いなく現役であり続ける理由の一つに、超一流のミュージシャンで構成されるバンドの存在があると思う。

 

2000年代初頭にこのバンドが始まったばかりの頃は、ポール・ウィッケンズ(ウィックス)以外の3人は新顔であり、どうしても「ポール・マッカートニー+サポートミュージシャン」という印象が強かった。

 

しかしこのバンドはすでに活動期間15年を超え、このまま20周年を迎える可能性が高い。今ではメンバーたちも顔なじみになり、単にポールのバックバンド以上の存在になった。「ポール・マッカートニーのライヴ」というとこの5人の演奏をイメージする人も多いはずだ。

 

以下は同じインタビューからの抜粋ではなく、それぞれ別々のメディア向けに、かつ異なる時期に行われたインタビューからポール・マッカートニーとの共演について語っている部分を抜粋したものである。

 

ラスティ・アンダーソン(ギター、ヴォーカル)

2009年7月「Paul McCartney's guitarist Rusty Anderson gives career advice」より

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Q. あなたはギタリストですが、ポールもギタリストとして優れています。そのせいで演奏しづらいことはありませんか?

ラスティ:(笑)彼は優れたギタリスト、ベーシスト、さらにドラムもキーボードも弾く。他の楽器だって演奏できる。でもいっしょに演奏しづらいことはないよ。もちろん、心のどこかで「彼はポール・マッカートニーだぞ。私なんかいっしょに演奏する資格なんかないじゃないか!」と思っていた(笑)。でもまた心の別のところで、「ポールが私をバンドに入れてくれたんだ。自分の実力を証明してみよう」と思う部分もあって、それが打ち勝った。結局私にできることは、ラスティ・アンダーソンという自分自身になること、いいギタリストであることだけだった。結局そこに行きつくんだ。洗濯をしているよりもギターを弾いている方が気分がいい。ギターは私の土台を作ってくれる。ギターなしでは自分が何をしているのか分からないよ(笑)

 

Q. ポールと演奏している曲のうち7割はビートルズ・ナンバーですが、ポールはあなたに指示を与えるのですか?レコードどおりに弾いてほしいがっているのか、それともあなた独自のやり方に任せているのでしょうか?

ラスティ:それは彼の気分によるんだ。私にとってビートルズの曲は侵すことのできないものだ。でもそれはポールにとっても同じなんだ。同時に世界中にビートルズのカバーバンドがいて、ポールはそれをよく知っている。ポールは自分自身のカバーバンドになんかなりたいとは思っていない。カラオケをやろうとしているんじゃないんだ。

 

Q. あなたがポールと演奏しているのをみると、ビートルズの曲をたくさん演奏していますがとても新鮮に聞こえます。

ラスティ:それこそまさにポールが求めていることなんだ。彼は「OK、じゃあ昔のヒット曲でもやろうか」みたいな感じには絶対ならない。彼は今まで何度同じ曲を演奏したとしても、どの曲も新しく生き生きしたものにしたいんだ。

 

 

ブライアン・レイ(ギター、ベース)

2013年10月「Brian Ray: The Epiphone Interview」より

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Q. ポールがビートルズの曲で弾いたベースラインをあなたが弾くときに難しいのはどんなことですか?セットリストの中には今まで一度もライヴで演奏されたことのない曲もありますね。

ブライアン:何よりもポールのもとで弟子のベーシストとして演奏できるのは素晴らしい栄誉なんだ。音楽の歴史の中でもっとも重要なベースラインのいくつかを演奏できるんだからね。ポールには曲と対称的になる(※)ロディアスかつリズミカルなベースラインを創り出すという超人的な才能がある。

(※訳注:音楽用語の「対位法」の意味か)

 

たとえば「Being for the Benefit of Mr. Kite」を聴けば分かるのように、ジョンのリードヴォーカルにポールのベースが重なっていくのはオーケストラのようだ。そしてそれが続いて行く。この美しいウォーキング・ベースこそが、ヴォーカルと完璧な対称をなすリズムとメロディになるんだ。そして今、ポールはその「Being for the Benefit of Mr. Kite」を自分でベースを弾きながら歌っちゃうんだ。普通の人じゃないよ(笑)

 

Q. そのポジションをどうやって手に入れたんですか?

ブライアン:ポールが探していたのは単なるベーシストじゃなくてベースも弾けるギタリストだった。私はエレキギター、6弦アコースティック、12弦エレキ、リードギター、リードスライドギター、リズムギター、そしてベースをすべて弾く。だから1回のコンサートで37曲演奏する中で、いつも楽器を取り替えているんだ。3曲連続で同じ楽器を演奏するってことはめったにない。ポールは自分がギターやキーボード、マンドリンウクレレを弾くときにベースをやってくれる人を探していたんだと思う。もちろん私は幸運にもそのチャンスを手に入れて、もう11年になるんだよ。

 

 

 

エイブ・ラボリエル Jr.(ドラムス)

2014年1月「Modern Drummer」より

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Q. あなたはポールとともに歌いながらドラムを叩くというリンゴ・スターの役割を再現していますね。

エイブ:そこがポールとの共演で素晴らしいことのひとつなんだ。リンゴは優れたプレイヤーだ。彼のパートはいつも興味深いし、すべての歌にすっかりはまり込んでいる。リンゴは静かに優しく演奏するかと思うと、ぶちのめすようなガレージロックを演奏したりもするんだ。

 

Q. リンゴのパートを演奏するときにはどんなアプローチをしているんですか?

エイブ:私は元のグルーヴを大切にするようにしている。でもポールは音楽を博物館に展示されているものみたいに扱ったりはしない。音楽を命あるものとして演奏するんだ。私たちの一人ひとりがお互いの目に輝きを持って、自分のキャラクターを少し付け加えながら演奏するときもある。

 

私はビートルズのレコードを聴きそれを学びながら育ったんだ。リンゴがやるみたいに左手でフィルインをするほどまではいかないけど、でもオリジナルのグルーヴにあわせて演奏することが多い。オリジナルに忠実であることが必要な曲もいくつかあるんだ。

 

オリジナルとは変えて演奏する例もある。例えばウィングスの「Let Me Roll It」ではポールがドラムを叩いていて、とても小さくてバイブの効いたプレイをしている。でもライヴでやるときはこの曲から「Foxy Lady」のジャムに移行していくから、強く叩くロックチューンにして演奏しているんだ。

 

ウィングスの曲の中でも私たちが今やっているものの多くは、ポールがドラムを叩いている。でも「Live and Let Die」ではデニー・シーウェルが素晴らしい演奏をしている。インストルメンタルのパートに入り込む部分での彼の演奏スタイルをできる限りキープできるよう、私はベストを尽くしているよ。彼の強弱の付け方は完璧だ!

 

「Junior’s Farm」も演奏するのが楽しい曲だ。レコードではジェフ・ブリトンがドラムを叩いていて、前進するような動きがある。「Listen to What the Man Said」ではジョー・イングリッシュがドラムで、やっぱり楽しいんだ。素晴らしいグルーヴだよ。彼も演奏しながら歌えるドラマーだった。ポールはこうした素晴らしいミュージシャンたちと長い間演奏してきた。自分がその中に加えてもらえるのはとても名誉なことだよ。

 

 

ポール・ウィッケンズ(キーボード、アコーディオン、ギター、ハーモニカ、パーカッション、他)

2017年12月「Wix Wickens - Zen and the Art of Multitasking」より

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Q. バンドで演奏するとき、ポールはどのくらいあなたの演奏に指示を出すんですか?細かい「木」よりも「森」全体をみる人なんでしょうか?

ウィックス:両方だね。オリジナルを聴いて、ライヴでどう演奏するか細かく音を拾っていくこともある。ビートルズの曲の多くはライヴで演奏されたことがないものが多いからだ。ツアーをやめた1967年以降の曲はすべてそうだよ。

 

私がポールのバンドに加入したとき、ポールは1979年のウィングス以来ツアーをやっていなかった。10年間ツアーをしていなかったんだ。私たちはアルバム『Flowers in the Dirt』を制作し、エルヴィス・コステロがポールといっしょに曲をたくさん書き、ミッチェル・フルームたちとアルバムを完成させた。そのときのツアーは主にアルバムのプロモーションが目的だったけど、私たちはビートルズウィングスの曲も演奏しようとした。ウィングスの曲の中にはリンダ(・マッカートニー)がキーボードを弾いているのもあった。ずっとライヴで演奏したことのない曲をどうやって演奏するか、検討する必要があったんだ。

 

Q. コンサートを観ていると今でもポールがエネルギッシュなのに驚かされます。彼はすでにこの世界のプロになって60年たちますが、それでもまだ新曲を演奏しているんですよね。

ウィックス:彼は音楽を愛しているんだ。だから私たちは1時間以上もかけてサウンドチェックをする。リハーサルをしていると、みんなのエネルギーが湧き上がってくるようなんだ。ポールがあらわれて、みんなとにかく演奏を続ける。演奏が楽しくて仕方がない。私たちはバンドとして一緒に演奏するのが大好きだ。だから単にセッションミュージシャンが集まって曲を上手に再現しているんじゃなくて、バンドとして感じられるんだ。

 

今のバンドメンバーは今までで一番長い間続いているラインナップだし、ポールが参加したバンドの中でも最も長く続いている。この全体がひとまとまりになるエネルギーが、伝える力を持っているんだと思うよ。

 

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