エリック・クラプトンを悩ます「末梢神経障害」とミュージシャンたち
ニューアルバム『I Still Do』をリリースしたエリック・クラプトンがインタビューで、神経を患っているためにギターを弾くことが困難な状態になったと語ったことは、世界中のファンに衝撃を与えた。
ほぼ2年ごとにクラプトンを迎え、そのライヴを楽しむことができた私たち日本のファンにとっても、大変ショッキングなニュースだった。
その神経症の原因とされているのが「末梢神経障害」である。
「電気ショックが足にまで伝わるように感じる」とクラプトンが語るその症状とは、体の末端の神経に影響を与え、しびれや鋭い痛みを引き起こし、体全体のバランスが取れなくなる場合もあり、その結果演奏がとても難しくなるというものだ。
【末梢神経障害に悩まされたミュージシャンたち】
この症状に悩まされた有名ミュージシャンはクラプトンだけではない。
プロコル・ハルムのギタリストだったデイヴ・ボールは、2012年に化学療法を受けている最中この症状に悩まされた。
大腸がんを患っていたボールは、その症状をこう語っている。
「神経が外側に露出してしまっている感じだ。あらゆるものとの接触、特に冷たいものを触るのが不快なんだ」
結局ボールはほとんどの時間手袋をして生活せざるを得なくなった。
「私はプロのギタリストだ。分かると思うけど、音を出すために指を使うんだよ」
ボールは2015年4月に亡くなっている。
70年代に活躍したバンド、フリーのベーシストであったアンディ・フレーザーもこの症状を患っていたことが分かっている。
フレーザーも2015年3月に亡くなっているが、死因はエイズとガンであった。
(フリー。左端がアンディ・フレーザー)
エマーソン・レイク・アンド・パーマーのキース・エマーソンは「ジストニア」という運動障害をわずらっており、これも同様の症状を引き起こすといわれている。
エマーソンの場合は1994年に起きたバイク事故が原因で、右手の神経にダメージを負ったのがその始まりだった。
【原因は?】
イギリスでは55歳を過ぎると10人に1人の割合でこの症状が発症するといわれている。
痛みは覚えるが、死にいたることはめったにない。
糖尿病が主な原因だが、怪我や化学療法、アルコール依存症などによっても引き起こされる。
またタイピングなどの繰り返しの動きによって神経が圧迫されることも、悪化の原因であるといわれる。
【クラプトンの場合】
クラプトンは、自身の抱えている症状は「良くなるとは限らない」と語っている。
医師たちは、末梢神経障害を発症した人には一定期間の休みを取ることをすすめる。
しかしこれはミュージシャンにとってはとても難しいことだ。
「Scena」というクラシック音楽雑誌によると、末梢神経障害患者の5人に1人はミュージシャンだという。
しかし他の研究によると、楽器演奏家以外のミュージシャンにも同じ確率でこの症状が出ているらしい。
クラプトンの場合は手ではなく脚に発症しているようなので、長年のギター演奏が原因ではない可能性も高い。
むしろ、アルコール摂取量がその原因として疑われる。
クラプトンの健康状態は、この数年間心配の種であった。
2013年には「ひどい腰痛」が原因として、一連のコンサートをキャンセルしている。
その翌年には、これ以上ツアーの激務には耐えられないので「引退を見据えている」と発言した。
「恥ずかしくなるような状態になるまで自分を追い込むことはしたくない」。
しかしクラプトンはレコーディングを止める予定はまったくないようだ。
今年6月の始めには、クラプトンがザ・ローリング・ストーンズとスタジオに入り、ストーンズの次のアルバムのために2曲レコーディングしたことが報じられた。
「まだ演奏は出来る。時どき演奏するのが大変なときはあるけど、それは体の問題だ。年をとるのは辛いことだよ」