ポール・マッカートニー『Twin Freaks』とエレクトロニカ・サウンド

 

今から10年前の2005年6月、ポール・マッカートニーはアルバム『Twin Freaks』をリリースした。

 

 

 

正確にはポール・マッカートニーと「フリーランスヘルレイザー」と名乗るDJとのコラボレーションである。

 

【ブートレッグDJとのコラボレーション】

このフリーランスヘルレイザーと名乗るDJは、またの名をロイ・カーという。 

 

カーは2001年「A Stroke of Genius」というリミックス曲をリリースし、本国イギリスで知られるようになった。

 

これはアメリカのロック・バンド、ザ・ストロークスの曲「Hard to Explain」のインストルメンタル部分に、クリスティーナ・アギレラのヒット曲「Genie in a Bottle」のヴォーカルを重ねたものであった。

 

 

 

カーは無断でこの2曲をリミックスしたため、ストロークスアギレラの所属するレーベルから使用停止を求める警告状を出されている。

 

しかしこのリミックス曲は、イギリスの一部のメディアからは高い評価を受けた。

 

おそらくポール・マッカートニーも評価した人物の一人だったのだろう。

 

2004年、ポールはロイ・カーに、自分の曲の中でもあまり有名でないものを取り上げてリミックスするよう依頼した。

 

カーはその年のポールのツアーに同行し、このリミックスバージョン数曲を開演前の会場で約30分間にわたりプレイした。

 

この時のリミックス曲にさらに数曲を追加して『Twin Freaks』が制作され、翌2005年にリリースされたのである。

 

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【マイナーな曲を中心とした収録曲】 

このアルバムの収録曲は以下の通り。カッコ内は原曲が収録されているアルバムのタイトル。

 

Really Love You(Flaming Pie)

Long Haired Lady(Ram)

Rinse the Raindrops(Driving Rain)

Darkroom(McCartney II)

Live and Let Die(シングル・リリース)

Temporary Secretary(McCartney II)

What's That You're Doing(Tug of War)

Oh Woman, Oh Why(シングル「Another Day」のB面)

Mumbo(Wings Wild Life)

Lalula(このアルバムのみに収録されている曲)

Coming Up(McCartney II)

Maybe I'm Amazed(McCartney)

 

一部「Coming Up」や「Live and Let Die」などのヒット曲は含まれているものの、他のほとんどはシングルカットもされていない、またはライブでも取り上げられることのないマイナーな曲ばかりが選ばれている。

 

また「Lalula」はインストメンタル・ナンバーで、ポールがすでにリリースした複数の曲がもとになっているようだが、全く原形をとどめない別の曲として出来上がっている。

 

 

 

このアルバムはCDではリリースされず、LP2枚組デジタル・ダウンロード だけで発売された。

またアルバムから「Really Love You」と「What's That You're Doing」がそれぞれ500枚限定、200枚限定の12インチシングルとしてリリースされている。

 

【ポールとエレクトロニカ

ポールがいわゆるエレクトロニカと分類される音楽を発表したのは、1993年にさかのぼる。

 

この年、ザ・ファイアーマンとして『Strawberries Oceans Ships Forest』をプロデューサーであるユースとともにリリースした。

 

 

 

同じ年の2月、ポールはスタジオアルバム『Off the Ground』をリリースしている。

このアルバムのセッションでは、レコーディングされたもののリリースされなかった曲がいくつも残っいた。

『Strawberries…』はそれらアウトテイクをリミックスし、テクノのアルバムに仕上げたものであった。

 

最初はポールの指示のもと、ユースが独自にまとめるというスタイルで制作を進めていた。

その後ユースから、『Off the Ground』のアウトテイクをいったんバラバラに分解し、新たに曲を作りなおしてしまうというアイデアを提示したところ、ポールが賛成し制作に参加。

最終的には二人のコラボレーションになった。

 

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(ポールとユース)

 

この新しいスタイルの音楽づくりがポールにとって新境地となり、また批評家たちの受けもよかった。

 

5年後の1998年にはザ・ファイアーマンとしての第2弾『Rushes』をリリース。さらに10年後の2008年には『Electric Arguments』をリリースしている。

 

 

 

これにフリーランスヘルレイザー(ロイ・カー)とのコラボレーションである『Twin Freaks』を加えると、ポールは今まで4枚のエレクトロニカ・サウンドをリリースしていることになる。

 

すでに1980年の『McCartney II』でポールのダンス・ミュージックやテクノ・サウンドへの傾倒ははっきりしていた。

 

 

 

また近年のワールドツアーでは、オープニングアクトにDJのクリス・ホームズを招き、ビートルズやポールの曲のリミックスをプレイしている。

さらにホームズがステージを去ってからポールが登場するまで、横のスクリーンに写真や映像が流されている間も、ホームズによるリミックスが延々とかかり続ける。

 

ポールとエレクトロニカとのつながりはまだまだ続くのであろう。

 

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(ポールとクリス・ホームズ)