ジェフ・ベック 70歳の誕生日に掲載された「ギター・ワールド」誌インタビュー(その2)
Q. 同じくイギリスのスーパーギタリスト、エリック・クラプトンとツアーをしたとき、あなたたち二人の間で対立や競争などはなかったのですか?
エリックと一緒に演奏できるのは、とても幸せなイベントだった。
長い時間がたって、彼は私を気に入ってくれていたと思うし、それは心の温まる経験だ。
彼がローリング・ストーン誌のインタビューで私のことをとても嫌っていたと言うまで私は知らなかったのだ(笑)。
Rolling Stone (ローリング・ストーン) 日本版 2010年 06月号 [雑誌]
彼は私たちは敵同士だったと言っていたが、そう感じていたのはエリックの側だったと思う。
私がヤードバーズに入ったときは、エリックに従っていたのだ。彼はすでに「重要人物」だったからね。
私がヤードバーズのアルバムで独自のスタイルを作り出していったときは、エリックの領域に入り込んで行こうなどという気はまったくなかった。
またそのあと、ジョージ・マーティンと一緒に「Blow by Blow」や「Wired」をつくった時以降もそんな気は全然なかった。
ジョージ・マーティンのおかげで、自分はインストルメント・アルバムを作れるという自信を得ることができた。
このレヴェルに到達したことで、エリックがやっていたことへの「直接的な」挑戦のようなものから完全に解放された。ほかの人も含めて、スタイルが被ってしまうということから解放されたのだ。
エリックは「ギターと言えばこの男」という存在になりたかったのだと思う。
実際その後、そういう男になったしね。
世界のどこにいる人でも、エリック・クラプトンが誰かを知っている。でも私が誰かは知らないのだ!
でもこれからは分からないじゃないかな?(笑)
Q. 1960年代半ば、ジョン・メイオール率いるブルースブレイカーズは、イギリスの優れたブルースギタリスト(エリック・クラプトン、ピーター・グリーン、ミック・テイラーなど)のトレーニング場のようなバンドでした。
メイオールがあなたをブルースブレイカーズに誘ったことはありましたか?
あった。ジョンは私の母の電話番号を見つけたのだ。母は私に「あのジョン・メイオールはとてもいい音をしていたわ!」など言っていたよ(笑)。
でも私は興味はなかった。ずっとブルースプレイヤーでいるつもりはなかった。
エリックが彼らと一緒にいるのを見たことはあったが、彼は素晴らしかった。エリックは私ができた以上にいい仕事をしたし、私はそれに挑戦するようなことはしたくなかった。
ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン
私の音楽の趣味は12小節ブルースからガラッと変わってきた。
ヤードバーズで演奏するよりもうまくできたかもしれないが、ヤードバーズのときのように実験的な演奏をする自由な権利を与えられることはなかったと思う。
ヤードバーズでライヴをしていたとき、ジョン・メイオールが会いに来たことがあった。
彼はとても率直な男だった。ライヴについて飾ったような、華々しいコメントは一切しなかった。
「オーディエンスは気に入っていたぞ。でもブルースは十分に演奏されてなかったんじゃないか?」と言ったよ。ちょっと待ってくれ、ヤードバーズはブルースバンドじゃない、と私は思った。
かつてヤードバーズはブルースバンドのようなグループだったが、その一方彼は純粋なブルースマンで、リトル・ウォルターのやるようなハーモニカを聴きたがっていたのだ。
(リトル・ウォルター(1930~1968)はアメリカのブルース・ハープ奏者。)
私はシカゴのブルースミュージシャンたちのまねをずっとやっていくつもりはなかった。
私たちはシカゴのブルースマンではないし、黒人でもない。イギリスの中流家庭の子供たちなのだから、そのスタイルで進み、私たち自身の音楽をやるべきだ。
私たちはその点で考えが異なっていた。ジョンのシカゴブルースへの傾倒から大きく離れてしまうことはなかったがね。
Q. 1960年代後半から70年代前半、伝説的ジャズ・ミュージシャンのマイルス・デイヴィスは、ロック寄りのアプローチを取り入れていました。
彼が自分のバックバンドのギタリストたちに「ヘンドリックスのように弾いてくれ」と注文していたのは良く知られています。
あなたはマイルスと一緒に演奏するようなオファーを受けたことはあったのですか?
私の目には、彼はずっとジャズの世界の人だった。彼は最上級の場所にいるような人物だ。
マイルスはミュージシャンに自分のやりたいことをやらせてくれる、そんな自然な精神の持ち主の一人だった。
『Tribute to Jack Johnson』(1971年リリース。ギタリストのジョン・マクラフリンが参加)では、ジョンが自分を前面に出しているのが聞こえてくる。
あれは、ほかの人から響くものを引き出しおいて、その上に自分が乗ってしまうという、マイルス一流の巧妙な技なのだ。循環してゆく力のようなものがある。
マイルスと一緒に演奏できるチャンスがあったらよかったと思うが、そのチャンスが訪れることはなかった。
彼が私のことを知っていたかどうかすら分からない。もし彼が(あの世から)戻ってくるのなら、私はきっと彼に会いに行っただろう。
(続く)