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ボブ・ディラン「Tell Me, Momma」に出てくる「Ol' black Bascom」とは?

ボブ・ディラン

ボブ・ディランの『ザ・ブートレッグ・シリーズ第4弾』は、1966年のいわゆる“ロイヤル・アルバート・ホール”・コンサートである。

 

この頃のディランのライブは、前半がアコースティック後半はエレクトリックと2部構成になっていた。

 

“ロイヤル・アルバート・ホール”・コンサートでも、同じ構成になっており、2枚組みアルバムCDの1枚目がアコースティック、2枚目がエレクトリックになっている。

 

この2枚目の1曲目、つまりエレクトリックの部の1曲目は「Tell Me, Momma 」で、スタジオ録音が正式にリリースされていない、このアルバムでしか聴けないナンバーである。

 

この歌の冒頭に、このようなフレーズが出てくる。

Ol’ black Bascom, don’t break no mirrors

Cold black water dog, make no tears

 

黒いバスコム爺さん、鏡を壊さないでくれ

冷たい黒レトリバー、涙を流さないでくれ

 

この「黒いバスコム爺さん」とは誰だろうか?

 

ディラン研究家やファンの間で通説となっているのは、この人である。

(「黒い」といいながらアフリカ系の人ではないところが謎のままだが・・・)

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バスコム・ラマー・ランスフォード

アメリカのフォーク・ミュージック研究家で、自身も歌を歌った。

 

もともとは学校の教師であったが、20世紀初頭からアメリカ各地を旅し、農場で歌っている地元の歌手たちと会い、また各地のフォーク・ミュージックに関する資料を集め続けた。

同時に自身でもバンジョーやヴァイオリンを弾き、歌を歌った。

 

バスコムはまたいわゆる最初の「フォーク・フェスティヴァル」を運営・開催した人としても、アメリカ・フォーク・ミュージック史上に名を残す人物でもある。

 

バスコムが1920年代に録音した歌のいくつかが、『Anthology of American Folk Music』という6枚組みのコンピレーション・アルバムに含まれ、1952年にリリースされた。

ボブ・ディランはこのコンピレーション・アルバムを聴いていたといわれている。

 

バスコムの代表的な曲のひとつに「I Wish I Was a Mole In the Ground」というものがある。

この歌の歌詞に以下のフレーズが含まれている。

Cause a railroad man they'll kill you when he can

And drink up your blood like wine

 

鉄道員は、チャンスを見てお前を殺すだろう

そしてお前の血をワインのように飲み干してしまう

 

このフレーズに明らかに影響されたものが、ディランの歌にある。

 

ブロンド・オン・ブロンド』に収録されている「Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again」にある、次のフレーズである。

Mona tried to tell me

To stay away from the train line

She said that all the railroad men

Just drink up your blood like wine

 

線路から離れていなさい

モナは私にそう言おうとした

鉄道員はみんな

あなたの血をワインのように飲み干してしまう、と彼女は言った

 

ディランはまだ駆け出しのフォーク・シンガーだった頃から、上記のコンピレーション・アルバムでバスコムを聴いていたはずである。

 

しかしこの『ブロンド・オン・ブロンド』も『“ロイヤル・アルバート・ホール”・コンサート』も1966年の作品であることを考えると、1965~66年のディランは再度バスコムを聴き、あらためて感銘を受け、その影響がおのずと自分の歌の歌詞に現れたものと思われる。

 

世間ではエレキ・ギターを持って歌うディランを、フォーク・ミュージックに背を向けた裏切り者であるかのように批判していた時期だった。

 

しかし、ディラン本人のコアの部分には、アメリカのフォーク・ミュージックが変わらぬルーツとして生きていたことが伺える。