ボブ・ディランが「High Water」をささげたチャーリー・パットンについて調べてみた その2

チャーリー・パットンの曲に「High Water Everywhere」というものがある。

 

 

ボブ・ディランの「High Water(for Charley Patton)」は明らかにこのパットンの曲にインスパイアされたものと見える。

 

パットンの「High Water Everywhere」は、1927年に発生したミシシッピー大洪水に直面し、命からがら逃げる様子を歌った歌である。

 

神様、町全体が、

神様、河が氾濫しています

神様、町全体が、

氾濫しているのです

 

ここにいることはできない

どこか高いところへ移動しよう

丘の上の町へ行きたいが

彼らは私を閉め出してしまう

 

前年(1926年)の夏からミシシッピー河は大雨が降り続いた。

 

その後も冬にかけて降り続けた雨のせいで、堤防は決壊し、ナイアガラの滝の水量の二倍にあたる雨水が流れ出たと言われている。

 

この洪水のために4億ドルの損害が発生し、246人が犠牲になった。

 

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出典:Destroying Wetlands is Like Poking a Bear | 1 Mississippi

 

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出典:96 1927 Flood Misc | Flickr - Photo Sharing!

 

ミシシッピー・デルタと呼ばれる地域の75%はアフリカ系アメリカ人だった。

 

グリーンヴィルと呼ばれる堤防は決壊したが、堤防の土台だけは残り、かろうじて水上に残されたため、その上に逃げ込んだアフリカ系アメリカ人たちが数多くいた。

 

しかし彼らは飲み水や食べ物もないまま数日間にわたって放置されていた、という記録も残っている。

 

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出典: The Flood of 1927 and Its Impact in Greenville, Mississippi | Mississippi History Now

 

パットンの「High Water Everywhere」はパート1とパート2に分かれて録音されている。

 

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これは最初から二部構成の歌を作ったわけではなく、当時のレコードでは録音できる時間に限界があるため、二つに分けて録音されたものであった。

 

 

パート2の最後では、

 

ああ、神様、女性も大人の男も溺れてしまった

 

家には誰もない、誰も見つからない

 

という悲惨な状況が歌われ、締めくくられている。

 

ブルースは、当時の黒人労働者たちの苦しみ・悲しみを歌った歌であることはよく知られており、この歌はまさにその代表的なものであった。

 

しかもこの歌では、アメリカ史上最も大きな被害をもたらしたと言われる洪水が取り上げられており、それを当時の黒人労働者たちの目線で描いたものとして、デルタ・ブルースの中でも特異な存在意義を持っていると考えられる。 

 

なお、ディランの「High Water (for Charley Patton)」は、その歌すべてが洪水を直接扱ったものではない。

 

しかし以下の部分は、パットンの扱ったミシシッピー大洪水に題材を得て書いたものだと思われる。

 

洪水は頭上6インチのところまで来ている

鉛でつくられた風船のように、棺桶が通りに落とされている

水はヴィックススバーグに流れ込んできた

何をすればいいかわからない

私につかまらないで、私も溺れているのがわからないの?と彼女は言う

厳しい状況だ

どこも水浸しだ