ボブ・ディラン「Duquesne Whistle」は何を歌っている曲か?
2012年にリリースされたボブ・ディラン35枚目のスタジオ・アルバム『テンペスト』。
このアルバムの一曲目がこの「Duquesne Whistle」である。
まず第一に「Duquesne」を”デューケイン”と読むことが難しい。
この「デューケイン」はペンシルヴァニア州にある人口が5千人超の町の名前である。
この町にはかつて「デューケイン・ワークス」という鉄鋼会社があった。
デューケイン・ワークスは「カーネギー鉄鋼」の傘下にあり、20世紀初頭の鉄鋼業の最盛期には、この町の産業の中心となっていたようである。
このころ、ニューヨークとこの地を結ぶ鉄道があった。
ディランの曲で歌われているのはこの鉄道のことである。
つまり「Duquesne whistle」はデューケインの駅から出発する汽車の汽笛のことであり、歌詞には汽笛をおそらく擬人化して歌っている部分もある。
デューケインの汽笛が聞こえるかい?
空が吹き飛ばされてしまうような音だ
お前は私を活気づける唯一の存在
私のハートにある時限爆弾のようだ
デューケインの産業都市としてのピークは1930年代だった。
その後1960年代を境に町はどんどん縮小され、現在はかつての産業の名残も見当たらない状況らしい。
財政的にも苦境に陥り、1991年には「財政悪化自治区」に認定された。
さらに2007年には地元のハイ・スクールも閉鎖され、人口も1930年代の4分の1にまで減ってしまった。
一方ディランの歌には、このようなデューケインの現状を嘆くようなフレーズは出てこない。
上に引用したような、ポジティブに聞こえる内容が、現在形で表現されている。
あくまで戦前の、最盛期だったころのデューケインを思い浮かべて書かれているように聴ける。